川村大(1995.10)ベシの諸用法の位置関係
川村大(1995.10)「ベシの諸用法の位置関係」『築島裕博士古稀記念国語学論集』汲古書院
要点
- ベシの用法を、「観念上の事態成立主張用法」と「事態の妥当性主張用法」の2類に分ける
- その2つには「観念の次元における事態存在の主張」という共通性が見出される
見通し
A類
- 現実世界には存在しない事態が、話者の観念においては成立し、存在することを述べるもの
- 推量:まだ実現していない事態(非現実の事態)が話者の観念において成立・存在する
- 可能:潜在的に実現し得るけれども実現していない事態(非現実の事態)が話者の観念において成立・存在する
- A類は以下の2類に分けられる
- A1 現実世界接触用法:現実に生起するか否かという関心において、非現実の事態を語る
- 推量:主文末の場合、話者の把握していない一般論、未実現、把握していない現実の事態に用いられ、従属句・連体法においても同様である
- 兆し・気配:現実世界に存在するものとして、非現実の事態を思い描きつつ述べるもの
- 予定:現実世界に生起することが決められているものとして未実現の事態を語ることで、観念上の事態の成立を主張するもの
- 十月に朱雀院の行幸あるべし(源・若紫)
- 運命・不可避:予定と同様だが、現実世界の状況を述べることに表現上の関心がある点で区別される
- 世をたもちたまふべき御宿世は(源・少女)
- A2 現実世界非接触用法:ただ観念において成立するものとして非現実の事態を語る
- 反実仮想、物の道理、仮定条件がこれに該当し、
- 連用修飾・準体法・連体法などに認められるベシに、非現実の事態をただ提示するだけのものがある
- 可能性:条件が整えば潜在的に成立し得ることを主張するもの
- 似げなきこと出で来ぬべき身(源・真木柱)
- A1 現実世界接触用法:現実に生起するか否かという関心において、非現実の事態を語る
B類
- 事態が存在することが適当・妥当であることを述べるもので、以下の2類に分けられる
- B1 事態の妥当性主張専一用法:妥当性を帯びていることの主張にのみ用いられる用法
- B2 事態実現希望用法:話者がその事態の実現を求めていることを主張する用法
- 意思・命令がこれに該当する
A類とB類の共通性
- 「観念の次元における事態存在の主張」を行う点で共通する
- A:話者の観念上当の事態が成立することを述べる
- B:妥当性の主張の背景で、話者の観念において存在するものであるという主張がある
雑記
- 思索ができないからこういう言葉を尽くすタイプの研究がなかなかできないなと思う(それって研究向いてなくない?)