ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

森勇太(2018.5)近世・近代における授受補助動詞表現の運用と東西差:申し出表現を中心に

森勇太(2018.5)「近世・近代における授受補助動詞表現の運用と東西差:申し出表現を中心に」小林隆(編)『コミュニケーションの方言学』ひつじ書房

要点

  • 申し出表現の地理的なバリエーションを考える
    • (その荷物は私が)持たしてもらいます(GAJ320・京都府左京区
    • 申し出表現における与益の使用が近世以前には可能で、諸方言でも可能なものがある
      • 持ってあげます・持ってあげましょう類が九州・中国・四国・東関東・東北に分布、関東南部にお持ちいたしましょう類、近畿圏に持たしてもらいます類(沖2009)
  • 調査、
    • 上方・関西は与益による上位者への申し出は若干低下するものの、近代に至っても見られる一方で、江戸・東京は近代に入ると見られなくなり、
    • 行為拘束の発話におけるサセテモラウ・サセテイタダクを東西比較すると、近代以降の関西では定着が見えるが、東京では定着していない
  • これは、待遇表現の東西差(西日本で敬語使用多、東日本で少)と並行的である
    • 否定疑問形に由来する行為指示表現や、依頼の際の恐縮なども同様
    • 江戸・東京ではオ型謙譲語が一般的で、迂言的形式としてサセテイタダクを導入した(それが現代に至る)が、
    • 上方・関西では、サセテモラウ・テアゲルが「親しみのある表現」として保持されたと考える(cf.矢島2016の「共有指向性/説明・打診型」と「一方向性/主張・提示型」)

雑記

  • 他にも学んではいるのに、一日一本に追われるの精神的にあんまりよくないかもしれない