ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

小田勝(2008.2)中古和文における助動詞の相互承接について

小田勝(2008.2)「中古和文における助動詞の相互承接について」『岐阜聖徳学園大学紀要 外国語学部編』47

要点

  • 要旨より、
    • 相互承接に両様あるものは6種あるが、その一方を標準的承接順とみなすことができる
    • 中古和文の助動詞は、その承接順を一様に確定することができる
    • 承接順は「接続句の制約からみた助動詞分類」の結果と一致する

実態

  • 以下の表のようであり、標準的なものを丸数字で示す

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p.86

  • 2通りあるものは以下の6種、
    • にたり/たりぬ:タリヌベシが1例のみで、ニタリが標準
    • まほしかりつ/てまほし:どちらも僅少だが、マホシカラ+ズ、ザリ+ツに基づけばマホシカリツが標準
    • ざるべし/べからず:どちらもあり得るが、用例数より、和文としてはザルベシが標準
    • つべし/べかりつ:ベカリツは孤例で、ツベシが標準
    • つめり/めりつ:どちらも僅少だが、ツ+ベシ、ベカ(ン)+メリに基づけばツメリが標準
    • つなり/なりつ:どちらも僅少だが、ツ+ベシ、ベカ(ン)+終止ナリに基づけばツナリが標準
  • 他、孤例、存疑例、特殊例を挙げる(pp.88-89)

承接順から見るヴォイス・アスペクト・テンス

  • ヴォイスに関して、
    • ラレサスの順でしか現れず、例はすべてサスが尊敬の意味であるので、現代語のサセラレル(使役+受身)は中古にはないということになる
    • 中世になっても二重ヴォイスはなく、1文に1つしか選択されないということができる
  • テンス・アスペクトに関して、
    • キ・ケリは未実現を表すムを下接できず、
    • ツ・ヌ・キ・ケリはズを下接しない、すなわち、取り消すことのできない現実性を有する
    • ヌ・タリはズを上接しない、すなわち、打ち消された事態はヌ・タリ形を持たない

接続句の制約

  • 小田(2006)の接続句内の生起の可否で示される階層と、助動詞の承接順は(補正を加えると)完全に一致する

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p.90

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雑記

  • しばらく相互承接ウイーク