ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山口翔平(2022.3)『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例

山口翔平(2022.3)「『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例」『国文学』106.

要点

  • 上代において既に自他両用である多義的な動詞サス(光がさす/針をさす)を事例として、古代語の自他両用動詞について考える。
  • 用法整理
    • 他動詞的影向は〈突き入れる〉と〈めざす〉に大きく分類される。
      • 〈突き入れる〉:挿し木、髪飾り、縫い物、舟(棹さす)、施錠(鍵さす)、設置(網さす)、液体に関するものが、それぞれ見られる
      • 〈めざす〉:「東をさして」(4131)のような例。
    • 自動詞的用法は、光に関するもの(日さす)と植物の生長(枝さす)に関するものがある。
  • 〈突き入れる〉は「刺」表記が優勢、〈めざす〉は「刺」不使用で主に「指」表記であるが、この「刺」「指」はそれぞれ他動詞的用法と結びつく用字で(針刺・広韻)、これが自動詞的用法にも流用されたものと考えられる。
  • 〈めざす〉は助詞ヲを明示する例が多く(≒「場所」が典型的な目的語になりえなかった)、〈突き入れる〉よりも後発的な用法であると考えられる。

雑記