ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

樋渡登(2002.3)副詞「総別」「総じて」と洞門抄物

樋渡登(2002.3)「副詞「総別」「総じて」と洞門抄物」『日本近代語研究3』ひつじ書房.(2007『洞門抄物による近世語の研究』おうふう を参照)

要点

  • 洞門抄物における「総別」「総じて」の差異を、以下の分類に従いつつ考える。
    • 全体用法:全体を概括的にまとめる
    • 一般用法:一般的な法則や慣例、傾向などを述べる
    • 強調用法:打消表現を伴い、事柄の確実性を強調する
  • 洞門抄物では、
    • 室町中後期成立の語録抄(碧巌録抄など)では、「総じて」が副詞として用いられるが、「総別」は仏教用語・一般名詞がメイン。
    • 室町後期以降の代語抄(巨海代抄など)などでは、「総別」は副詞として固定化している。
      • 総別心地ノサビタ人ガ家風マデモ物スゴイ物ダ(巨海代抄)
  • その他の資料では、
    • 関西系の抄物では「総別」の使用は少なく、「総じて」が用いられる傾向にある。
    • キリシタン資料では併存し(総別には位相的偏りあり)、狂言台本では江戸初期頃を境に「総別」が用いられなくなっていく。
  • 和文体には「総じて」、記録体や和漢混淆文体には「総別」が多い。
  • 口語資料にも見られるが、日常の常用の語ではなく、「教義用語的で、ある品位を伴った語であったろう事は想像できるし、どちらかといえば男性特に近世前期にあっては、武家層に好んで用いられた語でもあったようである」

雑記

  • 主張がわからない論文、「用例があることが大事、用例があることが大事…」って言って心を落ち着かせる