ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

吉田永弘(2011.11)タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ

吉田永弘(2011.11)「タメニ構文の変遷:ムの時代から無標の時代へ」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版

問題

  • タメニの意味が目的になるか原因になるかは、述語の意味と形式によってある程度決まる
    • 意志性述語の無標形→目的:本を買うために神田へでかけた
    • タ・テイル、非意志性述語→原因:本を買ったために、昼飯代がなくなった
  • 古代語では意志性述語による目的の用法はなく、意志性述語+ム(ガ)タメニを用いる
    • 天竺ニ一人ノ人有テ,財ヲ買ハムガ為ニ.銭五千両ヲ子ニ令持テ隣国ニ遣ル(今昔)
  • タメニ節の述語形式の変化について見ていく

使用状況

  • 目的・原因の区別を、タメニ節の事態と述語の時間関係、タメニ節の述語(意志性の有無)の意味を基準として見る
    • 目的:出かけた→買う/原因:買った→なくなった
  • 上代~中世において、訓点資料や変体漢文などの漢文調の資料に偏り、意味もほとんどが目的の例
    • すなわち、原因用法は後発的なもの
  • 中世後期~近世においても目的がほとんど、近代に至って原因用法が増加する様子

目的のタメニ

  • 目的のタメニは、中世前期までムガ・ンガを承けるのが一般的で、中世後期にムを承けるようになり、やや遅れて、ウを承ける
    • ウを承ける例が見られるのは、タメニが生産的に用いられていたことを示す
  • ウを承ける例と並行して、無標形を承ける例が目立つようになる
    • 大文典には無標形の例しか示されない
  • 他、意志性のある否定述語で目的を表す例がある
    • 毛の汚れぬために皮を着せたるひつじ(ラホ日)

原因のタメニ

  • 無標ガタメニの例が目立つ
    • 時に彼の貧人い財を求(め)むと欲フが為に(最勝王経古点)
  • 近世にタリ・キを承けた例があり、テイルを承けた例は近代まで見られない
    • 子をうしなひたるためにたまわる賜なれば(理屈物語)
  • 目的は背景に因果を持つので、ユヱと混淆することがある
    • 其ノ難ヲ救ハムガ故ニ来レル也。
  • 原因の例は目的と比べて少ないが、その理由は、タメニが目的の形式と認識されていたことによるだろう

その他のタメニ

  • 実現を予期して主節の行動を取る例(予期)
    • 今にも人がくるためにこゝへかくれてござんせと(冥途の飛脚)
    • 目的ではないが、狭義の原因でもない
  • 現代語のヨウニに相当する例(企図)
    • 姉なふかさねてもどらぬため.いはふて内で門火たけ。(心中宵庚申)
    • 意志性がないので狭義の目的ではない

変化の要因

  • 使用状況まとめ
    • 目的(予期・企図)意志性述語ム(ガ)タメニ→意志性述語無標形タメニ
    • 原因:無標形(ガ)タメニ
  • 従属節のムの衰退と結びつけるのが自然だが、その時期を中世後期であることを示す必要あり
    • あゆひ抄の記述より、18Cには必要とされていない
    • 土岐(2010)にも近世にその変化が進んだことが示される
  • 斯道本と天草版平家を比較することで示す

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  • ンはウ・ウズルに対応し、従属節でもそこそこ置き換えているので、従属節ウは生産的
  • わずかながら無標形に置き換えた例もあり、これを無標タメニと軌を一にするものと見てよい
    • 情ケヲ懸ケ奉ン人,都ノ内ニナトカ無カルヘキ/都の内に情けをかけまらする者がなうてはかなふまじい
  • 古代語から近代語への事態把握の変化として、
    • 従属節で未実現領域を表していたムが主節の意志専用になり、空き間に無標形が侵出
    • さらに、主節のムの領域にも無標形が侵出し、現代に向かう
  • これと同様の変化は条件表現にも起きている
    • 仮定の未然バと確定の已然バの対立が崩壊したことで、仮定はナラバ・タラバ、確定はホドニ・ニヨッテとなり、仮定・確定が形態的に並行しない関係となる
    • そこに、一般条件を表した已然バが拡張した仮定を表すようになる
    • すなわち、仮定という未実現領域に、従来実現を表していた已然バが侵出
    • 条件表現に関して、順接の未然バと終止トモは本来ムを承けないが、中世から近世ニウバ・ウトモの例が現れる
      • 前者は、仮定条件の未然バの衰退の中で仮定的意味を明確に示すウを伴うことが容認されたもの
  • 実現領域に関して、
    • 無標形・已然形が未実現領域に侵出
    • 過去・完了に関わる連用形周りもタへと収斂、連用形が実現領域に関わるという意識も薄れる
  • 中世後期を境目として、活用形が実現・未実現という事態把握とかかわらない体系へと移行する中に、タメニの変化もある
    • 目的:主節から見て未実現の事態を表すのにムが必須であったが、中世後期以降のムの衰退・無標形の侵出により、無標タメニが可能に
    • 原因:意志性述語の場合に無標形で実現を表しにくくなったことにより、実現を明示する形式が必要になった
      • タ・テイルを承けて実現を明示するようになったのはこのような事情による

雑記

  • カバヤのかき氷グミ(シャリシャリしてるやつ)が好きで、久々に見かけたから買おうと思ったらただのラムネだった。グミコーナーにあったから騙された