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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

矢島正浩(1993.2)天草版平家物語における打消推量・打消意志の助動詞:資料性との関わりを中心として

矢島正浩(1993.2)「天草版平家物語における打消推量・打消意志の助動詞:資料性との関わりを中心として」『愛知教育大学研究報告 人文科学編』42

要点

  • 天草版平家において、極めて近い用法を持つマジイ・マイが併存することに着目し、その意味について考える
    • 天草版平家の有する資料性との相関性
      • 文語的な箇所か口語的な箇所か
      • 逐語訳的性格の強い箇所かどうか

マジイ・マイと資料性

  • マジイ・マイの使い分けについて、差がないとするもの、使用場面の異なりとする先行論がある
  • 一方、天草版平家の資料性について、資料内の口語性が問題となることがある
    • 清瀬説(別語への置換・付加に基づく):巻4-1までが口語的、巻4-2以降が文語的
    • 小池①説(サムライ・サブライの分布に基づく):巻2-2まで・巻4-3以降にサムライが多く、中間部分(巻2-3~巻4-2)にサブライが多い
    • 小池②説(ヨリ・カラの分布に基づく)・伊藤説(御・出の読みの分布に基づく):巻1に古い語形が多く、巻2で漸減、巻3は古い語形が最も多く、巻4で微増
  • マジイ(古)、マイ(新)の分布を見ると、明瞭なABA型は取らないが、大きな食い違いを示すことはない

古典平家との対応

  • 原拠本との対応関係を見ると、
    • マジイ・マイともにジと対応する例が多く半数ほど。他に大きな偏りは見られないが、
    • 古典平家のマジ系との対応率が、マジイについては後半において際立って高くなる
    • ベシ→マイの対応は、巻2前半部までにしか存在しない
  • 逆に、古典平家の打消意志・打消推量は必ずしも天草版平家の打消意志・打消推量に対応しないが、後半に至るにつれて、逐語訳的な態度の高まりが読み取れる
    • 異なった表現に置き換えられるのは巻4-1まで
    • ジ・マジ→マジ・マジイ の対応率が上がる 、マジイは逐語訳的な性格の強い部分で使用されやすいものか

ジ・マジ

  • ジ・マジの準体言・連体修飾用法はこの頃衰退中で、資料性から説明できる分布がある
    • ジの終止形は巻4-2以降に偏る(逐語訳的な性格)
    • マジはそもそも少なく、既にあまり使用されなくなっていた
    • ジ・マジの連体形は終止形と逆の分布で、全て巻4-1以前に現れる
    • マジイ・マイの連体形については、マジイが巻4-2以降に集中し、マイは前半に偏る
  • 意味的にも相補的で、巻別の分布で説明できない例も説明可能