ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

古田龍啓(2022.3)副詞タシカの語史

古田龍啓(2022.3)「副詞タシカの語史」『日本語文法』22(1).

要点

  • 副詞タシカが想起文でのみ使われ、タシカニと区別されるようになった経緯について考える。
    • 日国では噺本(17C末)に見られる推量を伴うタシカが挙げられるが、洞門抄物に以下の例があるという。
    • タシカ曇華禅師ノ尊意モ向デア郎ズ。(巨海代抄)
  • 洞門抄物のタシカは、末形式に、現代語では共起しづらい推量系の助動詞がよく共起し、以下の2種がある。
    • 「推測内容の不確かさ」を表すタシカ:上例。
      • ウズ類の他、ト見ヱタ*1、ノ旨カ、などがある。
    • 「想起内容の不確かさ」を表すタシカ:タシカ…吾レト同年デア郎ズト覚ヱタガ…(大淵代抄)
    • これら2つの用法は、「当該の命題が真偽に関する不確かさを有する」ことが共通する。
  • それ以後の資料では、上方語資料・江戸語資料ともに、「推測内容の不確かさ」を表す例に偏るようになる。
    • (洞門抄物のタシカは東国方言ではなく共通語的性格(大橋1989「抄物共通語」)を有している。)
  • 最後にタシカニとの関係性を考えつつ、タシカの歴史について、
    • 中世後期のタシカニは、「蓋然性大」(e.g. タシカニ~命令)と「事実確認」の用法を持ち(これは「確からしさ」の点で共通)
    • このタシカニとの対比の下で、「推測内容の不確かさ」を表すタシカが成立した後に「想起内容の不確かさ」の用法を獲得し、
    • 他形式(タブン・オソラク)との張り合いの中で、「想起内容の不確かさ」専用になったと考えられる。
      • 推量系の減少や、思い出しと結びつく「タ」などの例の増加がこれを裏付ける。

メモ

  • 近世のカラハ・カラニとカラって無関係だと言われるけど、同じように、引き算的に影響与えてるっていうのはありえないのかな~と思っている

雑記

*1:この頃にもうモっぽくなってるのかな?