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言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

松尾弘徳(2008.3)因由形式間の包含関係から見た天理図書館蔵『狂言六義』

松尾弘徳(2008.3)「因由形式間の包含関係から見た天理図書館蔵『狂言六義』」『文献探究』46

要点

  • 天理本の因由形式の包含関係は中世末のそれと、天理本の内部変異を反映する

前提

  • 李(1998)の観点に基づき、天理本における因由形式の包含関係を調べたい
  • 李(1998)に示された虎明本の形式分類は以下の通り
    • B類:ニヨッテ・ニヨリ・ユエニ
    • C類:ホドニ・トコロデ・アイダ
  • 松尾(2000)では、天理本内部の変異について、
    • 上巻では、ホドニが7割を占め優勢であるのに対し、下巻ではホドニとニヨッテの使用率が拮抗
    • ホドニは天理本下巻において使用率が落ちるが、推量・意志・希望+ニヨッテ、ニヨッテ~命令・依頼の場合にはニヨッテに取って代わられることはない

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包含関係

  • 例えば以下の例を[[ニヨッテ]ホドニ]と考える
    • 私の親じゃ者が魚を商売仕者であったニヨッテ魚の名を多存たホドニ魚の名を取り集めて申て説法のやうに申さうと存ずる
  • 上巻において、
    • [[ニ]ホドニ]
    • [[ホドニ]ホドニ]
    • [[ニヨッテ]ホドニ]
    • [[バ]ホドニ]
    • [[ニヨッテ]ニヨッテ]
    • [[ニヨッテ]バ]
  • 下巻において、
    • [[ホドニ]ホドニ]
    • [[ニヨッテ]ホドニ]
    • [[ニヨッテ]ホドニ]
    • [[ニヨッテ]ニヨッテ]
    • [[バ]ニヨリ]
  • すなわち、
    • 天理本には[[ホドニ]ニヨッテ]はあるが、[[ニヨッテ]ホドニ]はない
    • 上巻はホドニ節による包含が多いが、ニヨッテの使用率が増す下巻では、ニヨッテ節の包含が伸張する
    • 下巻のニヨッテは後件の制約がないので、包含される節にもニヨッテが増加する
  • 因由形式の様相は異なるが、一方で包含関係という質的関係は維持されるので、天理本全体を通して当代の口語と齟齬を来さないと言える
  • なお、古本六議には(天理本とは異なり)内部差は見出だせないが、[[ホドニ]ニヨッテ]の例のあることが注目される
    • 年月の願もあるホドニさやうのこともしまひたいニヨッテ俄なれ共参
    • 「ニヨッテはホドニを包含しない」という
    • 天理本の[[ホドニ]ホドニ]と対応する例であり、ニヨッテの構造変化が背景にあるか
    • 虎寛本に至って[[ホドニ]ニヨッテ]、~うニヨッテが見られることとも関連する

雑記

  • めちゃゼミの課題っぽいな

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