ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

磯部佳宏(2004.2)古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合

磯部佳宏(2004.2)「古代日本語の疑問表現(上):要説明疑問表現の場合」『山口大学文学会志』54.

要点

  • 古代語の要説明疑問文についての、著者のこれまでの研究の整理。
  • 形式に、以下のものがある。
    • a Wh(…)カ―
    • b Wh(…)カ。
    • c Wh―ニカ―。
    • d Wh―ニカ。
    • e Wh(…)カハ―。
    • f Wh(…)カハ。
    • g Wh―ゾ。
    • h Wh(…)カ…ゾ。
    • i Wh―。
    • j Wh。
    • k Wh―ヤラム。

p.51

p.52

  • 以下の2点が指摘できる。
    • c, d「Wh―ニカ」の、中古和文での使用が目立つ。
      • 平家には使用がないが、kの「ヤラム」がこれに近似する。
    • g「Wh―ゾ。」が一般化する。

雑記

  • 国、どこまで醜悪になっていくんだろう 自分が死ぬまでに揺り戻すタイミング来るんかな

于康(1996.11)「いかに」の述語用法

于康(1996.11)「「いかに」の述語用法」『国語国文』65(11).

要点

  • 「いかに」は修飾用法(いかに~。)とは区別される述語用法(~はいかに。)を持ち、
  • これは、漢文訓読語の用法である。
    • 訓読文では「述格に立つ」用法(築島1963)があり、
    • 平安和文では限定的で、代わりに「いかにあらむ」などが用いられる。
    • 和漢混淆文には見られるようになる(このことも、訓読語であることを裏付ける)。
    • 天草版平家にも、まだ存する。

雑記

于康(1996.3)『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法

于康(1996.3)「『天草版平家物語』における「なぜに」の意味用法」『広島大学日本語教育学科紀要』6.

要点

  • 天草版平家を中心に、ナゼニとそれまでの不定語との関係性を記述することで、ナゼニの史的位置について考える。
    • 天草版平家では、ナゼニ以外にイカニ・イカガ・イカデなどの使用があるが用法に制限があり、理由の説明を求めるナドの使用はない。
  • 覚一本平家とは以下の対応関係を持つ。
    • ナゼニは、内容的問いに用いられるだけでなく、話し手の主観的な判断を表す反語表現にも用いられる。
    • 文末のゾは、話し手の主観的な気持ちを表す「不定語…ウ」に、さらに聞き手への持ちかけを表すものと考える。

p.57

  • 虎明本においては、述語文節に呼応語が存しない例(ナゼニ…∅)があり、これは、「会話文における内容的・疑問表現それ自体が聞き手に持ちかける機能を有するようになるにつれて、呼応語の役割が次第に希薄となる」ことによるものと考えられる。

雑記

  • THE ビッグオーを久々に一気見。正直ダルい回もあるけど設定もクサさもやっぱ素晴らしくて(第2期が賛否ある理由、気持ちは分かるけど賛一択やろ!って気持ちになる)、最終話の最後3分を見るためだけでも26話分見る価値がある

樋渡登(2005.6)洞門抄物から見た疑問詞疑問文について

樋渡登(2005.6)「洞門抄物から見た疑問詞疑問文について」『日本近代語研究4』ひつじ書房(『洞門抄物による近世語の研究』おうふう を参照).

要点

  • 外山(1957)、矢島(1997, 2002)を踏まえつつ、洞門抄物の疑問詞疑問文について検討する。
  • ① 体言性述部の場合、Wh…Nゾ・ダゾはほぼ守られている。
  • ② 用言性述部の場合、
    • ゾが脱落するのは存在動詞(Wh…アル)や敬体の場合が多い。
    • また、ウズの場合もカを取る例が目立つ。
  • ③ これ以外に、文末助詞ナ(虎明本、「何と付けたな。」)の使用が見られる。
  • ①は、外山の指摘とは一致しない。
  • ②は、従来の研究と同様の結論で、洞門抄物は室町末期の狂言台本よりも、近世に先んじた状況といえる
  • 洞門抄物は「同時代の他のいわゆる関西系資料と大きな隔たりを持っているわけではないが、その独自の形態も有しており、今後洞門抄物類の国語史資料としての位置付けに有用である」

雑記

  • 定価4万+税て
  • 樋渡(2007)が結構安くなってる 3年前に1万円で買った記録がある

矢島正浩(2002.3)疑問詞疑問文文末ゾの使用よりみた近松世話浄瑠璃

矢島正浩(2002.3)「疑問詞疑問文文末ゾの使用よりみた近松世話浄瑠璃」『日本近代語研究3』ひつじ書房.

要点

  • 近松世話浄瑠璃の疑問詞疑問文におけるゾの使用状況と、近松世話浄瑠璃の資料性についても考える。
    • 外山(1957)と矢島(1997)を踏まえる。

hjl.hatenablog.com

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  • 用言述語・体言述語の差異について、近松世話物は体言述語の方がゾの脱落率が低い。
    • 外山(1957)は体言述語の場合にゾが脱落しやすいものと見て、矢島(1997)では、狂言では述語の性質によるゾの脱落には差がないものと見た。
  • 平叙文も含めて、他資料との比較を行うと、
    • 概ね、文語性の強い謡曲幸若舞古浄瑠璃仮名草子浮世草子ではゾの脱落率が低く、咄本では高め、浄瑠璃・歌舞伎台帳では最も脱落が多い。
    • ほとんどの資料でVゾよりNゾの方がゾの維持傾向が強い中で、
      • 平叙文でNナリが高いほど、疑問文でのNゾの脱落率が低い。
    • 近松世話浄瑠璃は歌舞伎台帳・狂言に比して、Nゾのゾの維持傾向が強く、ナリの使用率も高い。この点で、単純に口語性が強いとは言い難い。
      • 体言述語でコピュラを用いない例(誰に遠慮/是が何に成こと)を取る点も、浄瑠璃特有の傾向である(ジャを避ける傾向とも言える)。
    • 平叙文ではNゾが中世末期には衰退期にあったとされるが、近松世話物ではNゾを取る例が多い。
  • 上のNゾの多用は、体言述語の場合、ゾを用いない場合には基本的にはジャを用いる必要があるが、ゾ・ジャは表現価値に差異があるために(ゾは配慮があり、ジャは直接的)、その書き分けのためにゾの脱落が一定数抑制されたものと解釈される。

雑記

  • ゲート・ガーディアンが強化されるのアツすぎ

矢島正浩(1997.7)疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として

矢島正浩(1997.7)「疑問詞疑問文における終助詞ゾの脱落:近世前・中期の狂言台本を資料として」加藤正信編『日本語の歴史地理構造』明治書院.

要点

  • 疑問詞疑問文のゾの脱落について、以下のことに注目しながら考える。
    • 外山(1957)の「虎明本では第一類(Vゾ・持ちかけ)と第二類(Nゾ・持ちかけ&指定判断)の呼応状況に差がない」ことの指摘は、述語形式(1か2か)とは別の事情でゾを用いないという方法が選択されていることを示すのでは?
  • 述語のタイプ(用言性・体言性)において、ゾの脱落との関わりを見出すのは難しい。
  • ゾの表現性について、
    • 敬意表現である場合、17C中頃以降成立(和泉家古本~)の台本において、用言性述語の場合にはゾが脱落しやすいという傾向がある。
      • 体言性述語の場合には敬意がなくてもゾが脱落する。
    • 体言性述語の場合、相手に配慮がいらない場合(対等者・下位者)の場合にゾが脱落し、ジャに交代しやすい。
      • 「ゾに「持ちかけ」性があり、上位者への敬意とは相容れない」という従来の指摘に相反するように見えるが、これは、「直接的で調子の強い表現」の場合にジャに積極的に交代したものと説明できる。
  • その他、「やりとりが佳境にあり、流れるようなテンポが要求される箇所」(疑問文の誘発が、場面や状況と意味的に密接な関係にある場合)で、ゾが脱落しやすいことが指摘できる。
  • 「ゾの義務的な付加」を中世後期の規範と見ると、全体的に見ればその規範が緩くなっていくと言えるが、流派によってその規範の指向の度合いが異なることも認めておくべき。

雑記

  • 『6』の表紙の色、独特すぎる

小林賢次(1996.10)大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に

小林賢次(1996.10)「大蔵流虎光本狂言集における疑問詞疑問文:終助詞「ゾ」を中心に」『日本語研究領域の視点 下巻』明治書院.

要点

  • 虎光本(1817写)の諸本の異同について、疑問文のゾに注目して比較する。
    • 古典文庫本の底本・山岸清斎文政6書写本と、対校本・岡田信言文政5写の橋本賀十郎明治40転写本との間で、異同があり、
    • 疑問詞疑問文では山岸本でゾを用いず、岡田本のみで用いる箇所の方が多いことを踏まえる。
  • 疑問断定表現の場合、
    • A型(疑問詞+N+ヂャ、外山の2類)の場合、慣用的な例を除けばゾは少数。従来のゾの位置にヂャが進出してきたという事情による。
    • B型(疑問詞+デ+ゴザルなど)の場合、山岸本独自本文でゾを用いず、岡田本独自本文でゾを用いる箇所が多い。岡田本の場合、相手に直接問いかける場合に積極的に「もちかけ」の「ゾ」を使用すると言える。
    • C型(推量のウを伴う例)の場合、ほとんどがゾを伴う。推量表現としての性格が強く出て、「「ウ」が話し手の立場を表すのに対して、質問表現として相手にもちかける「ゾ」を必要とする度合いが高くなっている」ためか。
  • 平叙疑問表現(断定表現以外)の場合、
    • D型(疑問詞+用言)の場合、ゾの使用について揺れがある。また、感動詞的な場合(何とする!)や反復の場合にはゾが現れにくい。
    • E型(特にウを伴う)の場合、2本間の異同はさほどなく、ゾの使用率は60%と高くない。自問の場合(何と致さう。)はゾを伴わず、相手に対して持ちかける気持ちのある類型的な表現「何とあらうぞ/よからうぞ」はゾを伴う例が多い。
  • 岡田本は山岸本と比較するとゾの使用傾向が高く、平叙疑問表現においては虎寛本のゾの使用率の方が高い。異同箇所だけを見れば岡田本のほうが伝統的で、山岸本が定型から離れた近世的な様相を示すが、共通本文自体においてもかなり揺れている。

雑記

  • あるスキャン魔と、これから先いろいろなものが公開されてこれまでのスキャンタイムが無駄になったらどうする?って話して、「これまで役に立ったからいい」って言われて、そだよね~って安心した