ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

中世前期

後藤睦(2019.6)『宇治拾遺物語』のノ・ガ尊卑の実態について:「ノ・ガ尊卑説」再考のための端緒として

後藤睦(2019.6)「『宇治拾遺物語』のノ・ガ尊卑の実態について:「ノ・ガ尊卑説」再考のための端緒として」『語文』112 要点 中世前期のガノに尊卑による使い分けはないが、 一部そう見えるために、過剰般化された規範も存した 前提 規範としてのガノ尊卑…

坂詰力治(1995.11)中世語法より見た『発心集』:国語資料としての性格

坂詰力治(1995.11)「中世語法より見た『発心集』:国語資料としての性格」『国語と国文学』72-11 前提 発心集(鎌倉成立)の性格について考える 慶安4[1651]刊の版本による 発心集の文法現象 二段活用の一段化と見られるものに「朝ニサカヘル家」の例が…

土居裕美子(2000.10)平安・鎌倉時代における「さわぐ」を構成要素とする複合動詞語彙

土居裕美子(2000.10)「平安・鎌倉時代における「さわぐ」を構成要素とする複合動詞語彙」『鎌倉時代語研究』 前提 平安和文と中世和漢混淆文の複合動詞語彙を考える さわぐ の前後項をそれぞれ以下の3つに分類 行動・動作:あけさわぐ/さわぎたつ 心情・…

高橋敬一(1979.6)今昔物語集における助動詞の相互承接

高橋敬一(1979.6)「今昔物語集における助動詞の相互承接」『福岡女子短大紀要』17 要点 助動詞の相互承接の豊かさ、使用頻度においても、今昔の文体上の区分は実証される 前提 相互承接の文体差に関して、築島(1963)は異なり語のみを挙げるが、使用頻度…

梅原恭則(1969.11)古今著聞集に於ける助動詞の相互承接

梅原恭則(1969.11)「古今著聞集に於ける助動詞の相互承接」『文学論藻』43 前提 実際の作品の分析・調査がなされたことがないので、古今著聞集をケースとして相互承接を検証したい 実態 以下表のようにまとめられる ナリ・タリ・ゴトクナリは「叙述の働き…

菅原範夫(1991.10)延慶本平家物語の「ムズ」小考

菅原範夫(1991.10)「延慶本平家物語の「ムズ」小考」『鎌倉時代語研究』14 要点 鎌倉時代のムズはベシに意味的に近似し、前代のムズからの変容が見られる ムズの意味 ムズ単独の場合、ベシに近い意味を持つ 打上ムトスルモカナウマジ。下ヘ落シテモ死ムズ…

泉基博(1995.11)『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして

泉基博(1995.11)「『十訓抄』における「つ」と「ぬ」:史的変遷を中心にして」『宮地裕・敦子先生古稀記念論集 日本語の研究』明治書院 要点 「つ」「ぬ」の転換期である中世前期の様相を『十訓抄』を元に考える 使用量と活用 源氏から十訓抄にかけて、ヌ…

松本昂大(2016.10)古代語の移動動詞と「起点」「経路」:今昔物語集の「より」「を」

松本昂大(2016.10)「古代語の移動動詞と「起点」「経路」:今昔物語集の「より」「を」」『日本語の研究』12(4) 要点 移動動詞の意味的特徴によって、起点を表す格助詞の用法が決定される 前提 ヨリ・ヲは概ね、起点・経路を表すとされている が、万葉集に…

信太知子(2007.3)古代語終止形の機能:終止連体同形化と関連させて

信太知子(2007.3)「古代語終止形の機能:終止連体同形化と関連させて」『 神女大国文』18 要点 終止形連体形の合流について、連用終止同形の活用語が、その異形態化を目指したものであると考える 問題 終止形連用形が同形の語において、それがどちらである…

吉田永弘(2012.3)平家物語と日本語史

吉田永弘(2012.3)「平家物語と日本語史」『愛知県立大学説林』60 要点 原拠本と天草版との対照による研究方法のあり方について 前提 一般的な諸本系統図のモデル(図1)は、書写過程以外における「作られた本文」を持つ異本の発生のある平家においては適用…

秋田陽哉(2015.5)源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」

秋田陽哉(2015.5)「源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」」松尾葦江『文化現象としての源平盛衰記』笠間書院 要点 ベシの命令の意について、以下の点を示す 中古にはほぼ見られないが、中世に多く見られるようになること 盛衰記には多く見られ、覚一本…

山田昌裕(2000.6)主語表示「ガ」の勢力拡大の様相:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』との比較

山田昌裕(2000.6)「主語表示「ガ」の勢力拡大の様相:原拠本『平家物語』と『天草版平家物語』との比較」『国語学』51-1 要点 原拠本平家と天草版平家に対照によるガの勢力拡大について、主に以下の3点を示す 対象を明示化する指向があること 疑問文におい…

吉田永弘(2015.5)『源平盛衰記』語法研究の視点

吉田永弘(2015.5)「『源平盛衰記』語法研究の視点」松尾葦江『文化現象としての源平盛衰記』笠間書院 要点 延慶本・覚一本との比較により、源平盛衰記の後代的言語現象を探る 前提 源平盛衰記は14C前半成立だが、現存伝本は16C中頃以降成立 慶長古活字版に…

吉田永弘(2001.3)平家物語のホドニ:語法の新旧

吉田永弘(2001.3)「平家物語のホドニ:語法の新旧」『国語研究』64 要点 吉田(2000)のホドニの用法を基準にした、平家諸本の位置付けの検討 hjl.hatenablog.com 前提 吉田(2000)によるホドニの三段階 平安において、前件と後件が時間的に重なる用法(…

金子彰(2018.11)鎌倉時代の女性文書とその言語特徴

金子彰(2018.11)「鎌倉時代の女性文書とその言語特徴」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 要点 女性文書から、鎌倉当時の口語性や地域性を読み解く 恵信尼文書の口語性 記録の世界における女性は、時代を経るに連れて増加 鎌倉遺文においても、中世に…

田中牧郎・山元啓史(2014.1)『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述

田中牧郎・山元啓史(2014.1)「『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述」『日本語の研究』10-1 要点 今昔と宇治拾遺の同文説話のパラレルコーパスを作ることで、「硬い」語彙と「軟らかい」語彙が抽出・特定で…

舘谷笑子(1998.12)助動詞タシの成立過程

舘谷笑子(1998.12)「助動詞タシの成立過程」佐藤喜代治編『国語論究 7 中古語の研究』明治書院 要点 助動詞タシの成立を連用形+イタシ、特にメダタシの語末が分出したものと考える タシ型形容詞分出説 甚だしい意を持つ形容詞イタシがついた複合形容詞の…

高山善行(2009.3)『平家物語』の対人配慮表現:「断り」表現を中心に

高山善行(2009.3)「『平家物語』の対人配慮表現:「断り」表現を中心に」『国語国文学』48 要点 タイトルまんま 「断り」のタイプ 平家(高野本)には、以下のタイプが見られる 延期タイプ:後で実行するとして実行を先送りするもの (武士)「西八条へ召…

竹内史郎(2007.7)節の構造変化による接続助詞の形成

竹内史郎(2007.7)「節の構造変化による接続助詞の形成」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 ガ(格助詞→接続助詞)に代表される、節の構造変化による接続助詞の形成について、 他の事例の指摘 契機や要因の考察 ガ・ヲ ガ Xノ連体ガ:…

山本真吾(2017.9)訓点特有語と漢字仮名交じり文:延慶本平家物語の仮名書き訓点特有語をめぐる

山本真吾(2017.9)「訓点特有語と漢字仮名交じり文:延慶本平家物語の仮名書き訓点特有語をめぐる」『訓点語と訓点資料』139 要点 『つきての研究』以降における「漢文訓読語」の批判的総括 漢文訓読語、訓点語、訓点特有語 築島裕『平安時代の漢文訓読語に…

辛島美絵(1989.6)国語資料としての仮名文書:鎌倉時代の二段活用の一段化例、ナ変の四段化例等をめぐって

辛島美絵(1989.6)「国語資料としての仮名文書:鎌倉時代の二段活用の一段化例、ナ変の四段化例等をめぐって」『奥村三雄教授退官記念 国語学論叢』桜楓社、同(2003)『仮名文書の国語学的研究』清文堂所収を参照 引き続き、ナ変動詞の問題を取り上げる。 …

松野美海(2014.11)感情動詞オソルのヲ/ニ格選択について:中世和漢混交文を中心に

松野美海(2014.11)「感情動詞オソルのヲ/ニ格選択について:中世和漢混交文を中心に」『名古屋大学国語国文学』107 要点 「恐れる」の格体制について、中世和漢混淆文を対象として、ヲ・ニの機能的対立を明らかにする 太郎は事業の失敗を恐れて、何もでき…

土井光祐(2018.2)明恵関係聞書類の一般性と特殊性:言語変種とその制約条件をめぐって

土井光祐(2018.2)「明恵関係聞書類の一般性と特殊性:言語変種とその制約条件をめぐって」『駒澤国文』55 問題意識 明恵資料群全体を等質の言語データとして扱うことは非常に困難 鎌倉時代口語研究に必要な6つの視点(土井2007) 資料的性格:資料の本来的…

山本真吾(2018.4)鎌倉時代の言語規範に関する一考察:「古」なるものへの意識をめぐる

山本真吾(2018.4)「鎌倉時代の言語規範に関する一考察:「古」なるものへの意識をめぐる」藤田保幸編『言語文化の中世』和泉書院*1 要点 前後の時代と画される(引き裂かれる)「中世」が、国語意識史の中でどのように捉えられるかを、「古人」のあり方か…

山本真吾(2014.9)鎌倉時代口語の認定に関する一考察:延慶本平家物語による証明可能性をめぐる

山本真吾(2014.9)「鎌倉時代口語の認定に関する一考察:延慶本平家物語による証明可能性をめぐる」石黒圭・橋本行洋編『話し言葉と書き言葉の接点』ひつじ書房 要点 日本語史研究において「鎌倉時代口語を反映する」とされる延慶本平家物語について、その…

藤井俊博(2017.12)古典語動詞「う(得)」の用法と文体:漢文訓読的用法と和漢混淆文

藤井俊博(2017.12)「古典語動詞「う(得)」の用法と文体:漢文訓読的用法と和漢混淆文」『同志社日本語研究』21 要点 「得」の用法に漢文訓読の影響から生じたものがあり、和文・和漢混淆文に取り入れられている 和文・漢文訓読文に共通して用いられる語…