ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

モダリティ

土岐留美江(2012.6)意志表現とモダリティ

土岐留美江(2012.6)「意志表現とモダリティ」沢田治美編『ひつじ意味論講座第4巻 モダリティII:事例研究』ひつじ書房 要点 モダリティの事例研究として意思表現について考えたい モダリティ体系の中での意志の位置付けは、そもそもモダリティに組み込むか…

木部暢子(2020.3)九州方言のゴトアルについて:COJADSのデータより

木部暢子(2020.3)「九州方言のゴトアルについて:COJADSのデータより」『坂口至教授退職記念日本語論集』創想社 要点 九州のゴトアルが様態と希望を表すことに対する2つの従来説 形態的特徴と意味の結びつきが排他的に決まる(ウゴトアル→希望/連体形+ゴ…

菅原範夫(1992.3)「うず」の消滅過程

菅原範夫(1992.3)「「うず」の消滅過程」『小林芳規博士退官記念国語学論集』汲古書院 標題の問題について、中世後期から近世前期のウズの消滅過程について考える 天草平家と原拠本の比較に基づくと、 終止法では「「べし」の表現していた意味上の空隙を「…

高山善行(1992.4)中古語モダリティの階層構造:助動詞の意味組織をめざして

高山善行(1992.4)「中古語モダリティの階層構造:助動詞の意味組織をめざして」『語文』58 要点 以下の3つのテストから、モダリティ(+テ・ア)の助動詞と文構造の関係を考える 助動詞の下接 従属中の生起 係助詞との関係 結果は以下の通り ツ・ヌ・ベシ…

小出祥子(2020.3)奈良時代語におけるラムカ構文とケムカモ構文

小出祥子(2020.3)「奈良時代語におけるラムカ構文とケムカモ構文」『名古屋短期大学研究紀要』58 要点 ム系助辞と終助詞カ・カモの接続関係について考える ラム・ケムの出現環境をまとめると次の通りで、 p.5 ラムカはあるのにケムカは少なく、ケムカモは…

大鹿薫久(1997.2)助動詞「らし」について

大鹿薫久(1997.2)「助動詞「らし」について」『語文』67 ラシの以下の特徴について考える 1 疑問文で用いられない 2 ラシの根拠の事態を明示することが多い 3 仮定条件句の帰結にならない これをもとに、時代別は「確信的に推量する」とするが、確信的なら…

大鹿薫久(2004.6)モダリティを文法史的に見る

大鹿薫久(2004.6)「モダリティを文法史的に見る」尾上圭介(編)『朝倉日本語講座6文法Ⅱ』朝倉書店 要点 モダリティを「判断のありように対応する意味上の概念」と規定して、叙実(疑問できる)・叙想(疑問できない)の別を設けると、現代語のモダリティ…

森野宗明(1960.3)ベラナリということば:位相上の問題を主として

森野宗明(1960.3)「ベラナリということば:位相上の問題を主として」『国語学』40 要点 ベラナリには、散文韻文両用説、韻文の男性語説などがあるが、以下の説を主張したい 1 平安初期としては訓点語としても用いられたが、口頭語とは(男性語の中であって…

竹部歩美(2019.7)『源氏物語』諸写本に見られる助動詞ムズ

竹部歩美(2019.7)「『源氏物語』諸写本に見られる助動詞ムズ」『言語の研究』5 要点 源氏大成本文にムズは3例あるが、諸写本を見るともっとある。このことについて、特に以下のことに注目して考える 大成以外の調査 ムズは会話文と心内文に現れるとされる…

澤田淳・澤田治(2020.3)「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性

澤田淳・澤田治(2020.3)「「NPのことだ(から)」の因果的推論の方向性」『日本語文法』20(1) 要点 「NPのことだ(から)」は後続命題を推論する用法を持つ 太郎のこと{だ。/だから、}この時期忙しいだろう。 絵が上手な太郎{だ/??のことだから}これ…

岡部嘉幸(2004.11)近世江戸語におけるラシイについて

岡部嘉幸(2004.11)「近世江戸語におけるラシイについて」『近代語研究』12 要点 江戸語のラシイについて、以下の点を考える ラシイの「推定」の内実 助動詞ラシイと接尾辞ラシイの関係 米八は元気らしく(≒そうに)二階へ来る(梅暦)のような接尾辞ラシイ…

岡部嘉幸(2002.10)江戸語におけるソウダとヨウダ:推定表現の場合を中心に

岡部嘉幸(2002.10)「江戸語におけるソウダとヨウダ:推定表現の場合を中心に」『国語と国文学』79(10) 要点 江戸語の終止ソウダとヨウダの使い分けについて考える 終止ソウダの用法とヨウダの用法比較 Ⅰは洒落本・滑稽本・人情本(梅暦・辰巳園)、Ⅱは幕末…

岡部嘉幸(2000.9)江戸語における終止形承接のソウダについて

岡部嘉幸(2000.9)「江戸語における終止形承接のソウダについて」『国語と国文学』77(9) 要点 標記の問題について、以下3点を考える 終止ソウダの「推量」「推定」の具体的内容は何か 終止ソウダの推量・推定と電文の関係性 連用ソウダの意味と、終止ソウダ…

上野左絵(2012.3)『古今和歌集鄙言』里言における「ゲナ」と「サウナ」

上野左絵(2012.3)「『古今和歌集鄙言』里言における「ゲナ」と「サウナ」」『十文字国文』18 要点 「つねのことは」「時俗のくちふり」をうつすという方針の『鄙言』(1796刊)が、あゆひ抄や遠鏡よりも自然な口語を得示すのではないか、という予測のもと…

高山善行(2016.11)準体句とモダリティの関係をめぐって:中古語の実態

高山善行(2016.11)「準体句とモダリティの関係をめぐって:中古語の実態」福田嘉一郎・建石始(編)『名詞類の文法』くろしお出版 要点 以下の観点から、中古における標記の問題について記述する 準体句内のモの生起 モの後接要素 準体句内のモと述部のモ…

山口堯二(2000.3)『天草版平家物語』の「まじい」と「まい」:原文との対照から見た打消推量の助動詞統合の歩み

山口堯二(2000.3)「『天草版平家物語』の「まじい」と「まい」:原文との対照から見た打消推量の助動詞統合の歩み」『京都語文』5 要点 原拠本平家と天草平家の対照と通して、打消推量の助動詞の流れを考える 対照を行うと、次の通り 原拠のマジの訳語とし…

山口堯二(2001.3)「まい」の通時的変化

山口堯二(2001.3)「「まい」の通時的変化」『仏教大学文学部論集』85 要点 マイの意義用法の変遷について考える 意義として以下6種を立てる 打消推定(せまい振る舞い)>打消推量(よも遠くへはござあるまい) 打消意志:(ここには)留まるまい 不適当:…

大塚光信(1962.9)助動詞マイの成立について

大塚光信(1962.9)「助動詞マイの成立について」『国語学』50 要点 口語法別記ではマイの成立に以下の過程を想定する 甲:終止形マジがマイとなり、そのマイが連体形マジキの領域を侵した 乙:終止形マジが連体形マジキの領域を侵し、終止・連体形両用とな…

山口堯二(2000.3)中世末期口語における「べし」の後身:『天草版平家物語』の訳語による

山口堯二(2000.3)「中世末期口語における「べし」の後身:『天草版平家物語』の訳語による」『文学部論集(佛教大学)』84 要点 文語化したベシの後身について、原拠本平家と天草平家との対照から考える ベシが残る場合、成句として当時の口語に残る シカ…

山口堯二(1999.10)「べし」の通時的変化

山口堯二(1999.10)「「べし」の通時的変化」『京都語文』4 要点 中古~室町までのベシの歴史を考える 意義の相互関係をまとめると、 p.194 通時的な見通しとしては、 中世には、状態を推定対象とする割合が減少している。 中世には、当為を推定対象とする…

山口堯二(1991.6)推量体系の史的変容

山口堯二(1991.6)「推量体系の史的変容」『国語学』165 要点 ム系の推量辞の歴史について考える 古代語の推量辞は、「現実のありようをなぞる」形で事態の現実性を識別する、「現実密着」型 ムード表示を担うだけでなく、むしろ対象のありようの表示をする…

Bert Cornillie, 2008. On the grammaticalization and (inter)subjectivity of evidential (semi-)auxiliaries in Spanish

Bert Cornillie, 2008. On the grammaticalization and (inter)subjectivity of evidential (semi-)auxiliaries in Spanish. Elena Seoane and María José López-Couso (eds.), Theoretical and Empirical Issues in Grammaticalization, 55–76 要点 スペイ…

Heiko Narrog, 2012. Beyond intersubjectification: Textual uses of modality and mood in subordinate clauses as part of speech-act orientation

Heiko Narrog, 2012. Beyond intersubjectification: Textual uses of modality and mood in subordinate clauses as part of speech-act orientation. English Text Construction 5(1), 29–52. 要点 日本語・英語におけるモダリティ・ムード形式の texutual…

Martina Faller, 2014. Reportative evidentials and modal subordination

Martina Faller 2014. Reportative evidentials and modal subordination. Lingua 186-187, 55-67. 要点 Modal subordination は モダリティのスコープが前文の別のモーダルな形式のスコープに従属化する現象である An alien might have abducted the cow. H…

Jan Nuyts, Pieter Byloo, 2015. Competing modals: Beyond (inter)subjectification

Jan Nuyts, Pieter Byloo, 2015. Competing modals: Beyond (inter)subjectification. Diachronica 32(1), 34-68. 要点 オランダ語の kuunen "can", mogen "may", moeten "must" の意味の発達をコーパスベースで調べる mogen と kuunen には (inter)subjecti…

森脇茂秀(2015.3)比況表現の一形式

森脇茂秀(2015.3)「比況表現の一形式」『山口国文』38 前提 九州方言のゴト・ゴタルが希望表現に出現する要因を考えるために、 ヤウナリが希望表現を獲得する過程を考える ヤウナリ・ヤウニの意味 中古においてヤウナリが比況になる場合、以下の傾向がある…

藏本真由(2018.3)「感じがする」の前接要素と形態的特徴

藏本真由(2018.3)「「感じがする」の前接要素と形態的特徴」『国文学』102 前提 「感じがする」の通時変化について、以下の資料を用いて、 近代文学・近代雑誌 現代文学・雑誌・Yahoo・Twitter 以下の観点から考える 様態・引用形式前接の有無 前接品詞 形…

渡辺由貴(2011.3)中世における文末表現「と思ふ」と「と存ず」

渡辺由貴(2011.3)「中世における文末表現「と思ふ」と「と存ず」」『早稲田日本語研究』20 前提 中世における文末表現の「と思う」「と存ず」の位置付けを、以下2点から考えたい 話し手と聞き手の関係性 モダリティとしての表現性 分析1 身分の関係を見る…

山口堯二(2001.10)「やうなり>やうだ」の通時的変化

山口堯二(2001.10)「「やうなり>やうだ」の通時的変化」『京都語文』8 前提 やうなり>やうなる>やうな>やうぢや>やうだ の変化の見通しを示したい 以下の用法に分類できる 類縁性(様相の類似するもの同士を関係付ける) 例示 一致(この前のようにやる)…

山内洋一郎(2007.10)助動詞「そうだ」の表記と機能:中世語研究の視点を中心に

山内洋一郎(2007.10)「助動詞「そうだ」の表記と機能:中世語研究の視点を中心に」『国学院雑誌』108(11) 要点 ソウダのソウは(「様」ではなく)「相」由来で、連用ソウダが先行する 前提 ソウダのソウは相とも様とも言われるが、よく分からない ソウダの…