ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2018-01-01から1年間の記事一覧

金水敏(1991.3)受動文の歴史についての一考察

金水敏(1991.3)「受動文の歴史についての一考察」『国語学』164 要点 非情の受身非固有説を再検討し、以下の点を示す 固有の非情の受身の類型が存すること ニヨッテ受身がその領域を拡張したこと 問題点 非情の受身は固有のものでないというのが通説 論者…

外山映次(1969)条件句を作る「ウニハ」をめぐって

外山映次(1969)「条件句を作る「ウニハ」をめぐって」『佐伯博士古稀記念国語学論集』表現社 要点 特に洞門抄物に見られる「ウニハ」について ムニハ > ンニハ を経た室町口語のウニハを洞門抄物が取り入れ、固定化したものと見る 問題 無門関抄四十八則の…

村上謙(2010)対照表形式の近世後期上方語彙資料

村上謙(2010)「対照表形式の近世後期上方語彙資料」『埼玉大学国語教育論叢』13 要点 近世後期における上方・江戸の対照形式の、これまで注目されてこなかった資料について 『浪花聞書』『新撰大阪詞大全』、『浮世風呂』の方言会話部分といったものが有名…

蜂谷清人(1977)狂言古本における仮定条件表現:「ならば」「たらば」とその周辺

蜂谷清人(1977)「狂言古本における仮定条件表現:「ならば」「たらば」とその周辺」『成蹊国文』10、『狂言台本の国語学的研究』笠間書院所収 要点 仮定条件表現の変化のうち、特に次の3つの事柄について、狂言台本を主資料として述べる 連体形ナラバ・未…

佐々木淳志(2013.3)「語の安定化」と二段活用の一段化

佐々木淳志(2013.3)「「語の安定化」と二段活用の一段化」『愛知教育大学大学院国語研究』21 要点 佐々木(2010)の続き 坂梨(1970)などで検討されている音節数と一段化の関係性について、「語の安定化」の観点から見る hjl.hatenablog.com 調査 「単音…

小田勝(1994.7)接続句の制約からみた中古助動詞の分類

小田勝(1994.7)「接続句の制約からみた中古助動詞の分類」『國學院雑誌』95-7 要点 小田(1990)の修正と、それに基づく助動詞の階層的分類 hjl.hatenablog.com 前提 接続句中の助動詞の出現の制限は文の階層性を反映するものである 小田(1990)を一部改…

小田勝(1990.8)中古和文における接続句の構造

小田勝(1990.8)「中古和文における接続句の構造」『國學院雑誌』91-8 要点 中古における日本語文構造の整理 ツツ-テ-トモ-未バ-已バ-ド・ドモ の階層を提示 前提 例えば已然形バは、めば、らめば、けめばを接続しないが、ド・ドモは承けることができる 心…

小林正行(2006.1)狂言台本における助詞バシ

小林正行(2006.1)「狂言台本における助詞バシ」『日本語の研究』2-4 要点 狂言におけるバシについて、使用実態と用法の変遷を明らかにする 問題 従来の指摘 中世前期には目的格の語に接し、仮定・推量・意志・疑問・禁止と共起 中世後期には目的格以外にも…

小林正行(2014.3)狂言台本における例示の副助詞デモ

小林正行(2014.3)「狂言台本における例示の副助詞デモ」小林賢次・小林千草編『日本語史の新視点と現代日本語』勉誠出版 要点 タイトルまんま 近世狂言台本の例示のデモ(お茶でも)が、逆接仮定条件のデモの、最低条件の「せめて~だけでも」と、全面的肯…

佐々木淳志(2010.3)自動詞・他動詞と二段活用の一段化

佐々木淳志(2010.3)「自動詞・他動詞と二段活用の一段化」『愛知教育大学大学院国語研究』18 要点 近世の一段化が、特に自他対応のある語において、形態上の同定を容易にするために進行していたことを示す 動詞の自他と一段化 自動詞他動詞の両方が二段活…

矢島正浩(1993.2)天草版平家物語における打消推量・打消意志の助動詞:資料性との関わりを中心として

矢島正浩(1993.2)「天草版平家物語における打消推量・打消意志の助動詞:資料性との関わりを中心として」『愛知教育大学研究報告 人文科学編』42 要点 天草版平家において、極めて近い用法を持つマジイ・マイが併存することに着目し、その意味について考え…

村上謙(2003.12)近世後期上方における連用形禁止法の出現について

村上謙(2003.12)「近世後期上方における連用形禁止法の出現について」『国語と国文学』80-12 要点 近世後期上方に見られる「なぶりな」(=なぶるな)のような連用形禁止法の出現について これを連用形接続のナではなく連用形命令法+ナと解釈し、 終助詞…

吉田永弘(2014.1)古代語と現代語のあいだ:転換期の中世語文法

吉田永弘(2014.1)「古代語と現代語のあいだ:転換期の中世語文法」『日本語学』33-1 要点 転換期として位置付けられる中世語の事例として、 連体法の「む」の衰退 仮定形の成立 肯定可能の「る・らる」の拡張 を挙げ、これを軌を一にする変化として統一的…

モツ鍋にハチノスを入れよう

はじめに 自分のモツがはちきれるくらい、モツ鍋を食べたい時がある。新鮮なモツを仕入れて自分で作るモツ鍋は、贔屓目に言ってもそのへんの店で食べるやつよりおいしいと思う。 焼肉でもホルモンを頼みがちで、牛ホルモンはハチノスとセンマイが好物*1。 で…

京健治(1998.2)並立列挙表現形式の推移

京健治(1998.2)「並立列挙表現形式の推移」『島大国文』26 要点 ~シ~シの成立以前の並立表現のあり方について シ 用例推移を見ると、 虎明本・天理本のマイシの例が早い その後、ウシの例が出る 近世後期にVシの例がある シの成立について、 従来は形容…

仁科明(2014.9)「無色性」と「無標性」:万葉集運動動詞の基本形終止、再考

仁科明(2014.9)「「無色性」と「無標性」:万葉集運動動詞の基本形終止、再考」『日本語文法』14-2 要点 基本形(終止形・連体形)終止の消極性は以下の2側面を持ち、基本形の用法はどちらかの側面が前面に出たものと説明できる 形式自体の無色性 体系内で…

坂詰力治(1990.2)室町時代における「こそ」の係り結び

坂詰力治(1990.2)「室町時代における「こそ」の係り結び」『近代語研究』8 要点 「こそ」の係り結びの崩壊の過程について 文語資料において 文語資料として、謡曲(車屋本)、曽我物語(大山寺本) 文語資料はどちらも9割弱が正しく係り結びされている 結…

坂梨隆三(2015.2)春色梅児誉美の「腹を立つについて」

坂梨隆三(2015.2)「春色梅児誉美の「腹を立つについて」」『近代語研究』18 概観 近世後期に「腹を立つ」という言い方がある おまはんは腹をたゝしつたのかへ 腹が立つ/腹を立てる とありたいところ、以下の見方がある 自他両用の「立つ」を想定し、この…

岩田美穂(2007.7)例示を表す並列形式の歴史的変化:タリ・ナリをめぐって

岩田美穂(2007.7)「例示を表す並列形式の歴史的変化:タリ・ナリをめぐって」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 不十分終止由来の並列形式の史的変化についての統合的な分析 問題 疑問由来の例示並列は、不定性を有するために例示の…

田中牧郎・山元啓史(2014.1)『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述

田中牧郎・山元啓史(2014.1)「『今昔物語集』と『宇治拾遺物語』の同文説話における語の対応:語の文体的価値の記述」『日本語の研究』10-1 要点 今昔と宇治拾遺の同文説話のパラレルコーパスを作ることで、「硬い」語彙と「軟らかい」語彙が抽出・特定で…

蜂矢真弓(2018.10)一音節名詞被覆形

蜂矢真弓(2018.10)「一音節名詞被覆形」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房 要点 1音節名詞被覆形とそれに対応する1音節名詞露出形・2音節名詞露出形の分布について 2音節を取るのは、単独母音を避けるためか、もしくは別語…

岡部嘉幸(2011.5)現代語からみた江戸語・江戸語からみた現代語:ヨウダの対照を中心に

岡部嘉幸(2011.5)「現代語からみた江戸語・江戸語からみた現代語:ヨウダの対照を中心に」金澤裕之・矢島正浩編『近世語研究のパースペクティブ』笠間書院 要点 江戸語のヨウダ・ソウダの現代語との差異を指摘し、江戸語のヨウダが現状描写性を持つ一方で…

小林賢章(1991.5)二段活用の一段化時期

小林賢章(1991.5)「二段活用の一段化時期」『語文』56 要点 近世の一段化について、従来の延享頃完了という説の再検証 関東では先行していたこと、上二段が先行したこと、一音節動詞が先行したことにより、問題となるのは、京阪における、下二段動詞の、二…

坂梨隆三(1970.10)近松世話物における二段活用と一段活用

坂梨隆三(1970.10)「近松世話物における二段活用と一段活用」『国語と国文学』47-10、同(2006)『近世語法研究』武蔵野書院所収 要点 近世の一段化の基本文献 一段化の語彙的・位相的な傾向 近松世話浄瑠璃の一段化 世話浄瑠璃24作品から例を抽出 異版本…

小島和(2017.3)キリシタン資料における「ものなり」表現について:「教義文体」との関わり

小島和(2017.3)「キリシタン資料における「ものなり」表現について:「教義文体」との関わり」『日本近代語研究 6』ひつじ書房 要点 キリシタン資料の文末モノナリと教義書類との関連性について、ラテン語引用文と日本語訳を見ることによって分析 モノナリ…

福沢将樹(2018.10)事態継続と期間継続:中世抄物を中心に

福沢将樹(2018.10)「事態継続と期間継続:中世抄物を中心に」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房 要点 「継続」を「事態継続」と「期間継続」に分けて分析することで、純粋な「動作継続」が中世後期には見られないことを示す…

舘谷笑子(1998.12)助動詞タシの成立過程

舘谷笑子(1998.12)「助動詞タシの成立過程」佐藤喜代治編『国語論究 7 中古語の研究』明治書院 要点 助動詞タシの成立を連用形+イタシ、特にメダタシの語末が分出したものと考える タシ型形容詞分出説 甚だしい意を持つ形容詞イタシがついた複合形容詞の…

吉田永弘(2015.11)「とも」から「ても」へ

吉田永弘(2015.11)「「とも」から「ても」へ」秋元実治・青木博史・前田満編『日英語の文法化と構文化』ひつじ書房 要点 「とも」から「ても」への交替過程とその要因について 「ても」は当初逆接仮定の形式ではなかった 中世後期に助詞「て」+助詞「も」…

松尾弘徳(2009.6)新方言としてのとりたて詞ゲナの成立:福岡方言における文法変化の一事例

松尾弘徳(2009.6)「新方言としてのとりたて詞ゲナの成立:福岡方言における文法変化の一事例」『語文研究』107 要旨 福岡における若者中心の方言の変化に見られる、助動詞ゲナが「数学げな嫌い」となる、とりたてのゲナの成立について 九州のゲナ 近世期に…

尾谷昌則(2015.12)接続詞「なので」の成立について

尾谷昌則(2015.12)「接続詞「なので」の成立について」加藤重広編『日本語語用論フォーラム 1』ひつじ書房 要点 文頭なのでの成立に関する問題 これまでの指摘や文体的・語用論的特徴をまとめ、 接続詞化のプロセスに関しては「それなので」の「それ」の削…