ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

近世

小林正行(2005.3)狂言台本における副助詞ガナ

小林正行(2005.3)「狂言台本における副助詞ガナ」『日本語研究(都立大)』25 要点 狂言におけるガナについて考えたい 保教本以降に使用数が増加することから、近世中期以降に新たにくわえられた例がある様子 上接語は不定語・名詞・引用句などがあり、 不…

鈴木英夫(1985.5)「ヲ+自動詞」の消長について

鈴木英夫(1985.5)「「ヲ+自動詞」の消長について」『国語と国文学』62(5) 前提 「腹を立つ」の疑問から出発して、 ヲ+自動詞の消長について考える ヲ+自動詞 Ⅰ「太郎が川を渡る」類には消長はない 自動詞の移動動詞がヲ格を取る場合、自動詞主語が他動…

坂口至(1990.3)噺本に見る近世後期上方語の諸相

坂口至(1990.3)「噺本に見る近世後期上方語の諸相」『文学部論叢(熊本大学)』31 前提 後期上方語の資料としてあまり活用されてこなかった後期噺本の資料性を考えたい 活用 二段活用の一段化:自立語では洒落本と同等で、付属語はやや少ない ラ行下二段の…

三原裕子(2016.2)後期咄本に現れる原因・理由を表す条件句

三原裕子(2016.2)「後期咄本に現れる原因・理由を表す条件句」『(アクセント史資料研究会)論集』11 前提 明和以降の後期咄本について、以下の問題を考えたい ホドニ・ニヨッテ・サカイの衰退と カラの隆盛・ノデの抬頭 全体的な推移 江戸板では、 上方語…

青木博史(2014.10)接続助詞「のに」の成立をめぐって

青木博史(2014.10)「接続助詞「のに」の成立をめぐって」青木他編『日本語文法史研究2』ひつじ書房 前提 以下の2点に留意しつつ、ノニの成立・発達について考えたい ノ+ニの構造をどのように把握すべきか 「意外感」「不満」の意味の出どころ ノニの出自…

梅林博人(2017.4)滑稽本の接続詞「しかし」について

梅林博人(2017.4)「滑稽本の接続詞「しかし」について」『表現研究』105 前提 シカシはシカシナガラのナガラが落ちて近世に発生したもので、当初は逆接性がメインではなく、付加用法とでも言うべき用法であった 逆接らしいものは近代以降に現れたとする説…

原口裕(1985.5)可能表現「スルコトガデキル」の定着

原口裕(1985.5)「可能表現「スルコトガデキル」の定着」『国語と国文学』62(5) 要点 コトガデキルの発達は文章語で先行し、化政期以降に日常語化する スルコトガデキルの日常語化 徂徠派の漢文の俗語訳解に源流が求められそうである 人ニカツヿガデキヌト…

池上秋彦(1995.8)「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して

池上秋彦(1995.8)「「五大力恋緘」の語法・緒論:上方本と江戸本を比較して」『国語と国文学』72(8) 前提 初世並木五瓶「五大力恋緘」の、大阪初演(1794)と江戸初演(1975)の台本の比較を通して、そこに現れる上方・江戸の語法差を記述したい 動詞 サ行…

島田泰子(1995.3)接尾辞タラシイの成立

島田泰子(1995.3)「接尾辞タラシイの成立」『国語学』180 要点 タラシイは当初非独立的要素を取り、後に独立的要素を取るようになる タラシイの成立にはタラタラの関与が考えられる タラシイの一群と意味 タラシイの語例は以下の通りで、 1-3までは非独立…

原口裕(1978.11)連体形準体法の実態:近世後期資料の場合

原口裕(1978.11)「連体形準体法の実態:近世後期資料の場合」『春日和男教授退官記念語文論叢』桜楓社 要点 ノ準体の明確な定着は天保以降である 推移 明和期洒落本においては全体的に頻度は少ない ノ準体は受け型(内の関係、モノ型)に多く、 φ準体はト…

中野伸彦(1990.12)江戸語における「命令文+終助詞『ね』」

中野伸彦(1990.12)「江戸語における「命令文+終助詞『ね』」」『山口大学教育学部研究論叢 第1部 人文科学・社会科学』40 要点 江戸語と現代語の命令文+ネは意味合いが異なる 「聞き手の自覚をもとにして、その自覚を確認する」という要求の仕方をする、…

中野伸彦(1999.10)江戸語における終助詞の相互承接

中野伸彦(1999.10)「江戸語における終助詞の相互承接」『近代語研究』10 前提 文の構成に関わらない終助詞の相互承接を、五十音順に見ていき、整理する 終助詞の相互承接 い いの のみで、文語調・疑問文に偏る え えぞよ 1例のみ、平叙文 さ さな、平叙文…

三宅俊浩(2018.11)近世後期尾張周辺地域における可能表現

三宅俊浩(2018.11)「近世後期尾張周辺地域における可能表現」『名古屋大学国語国文学』111 要点 近世後期の尾張において、以下の交替が確認される 五段動詞はレルから可能動詞へ(1) 一段・カ変はラレルからラ抜きへ(2) サ変はナルからデキルへ(3) 1,…

鈴木丹士郎(1999.10)近世における形容詞シシ語尾の展開

鈴木丹士郎(1999.10)「近世における形容詞シシ語尾の展開」『近代語研究』10 要点 近世の形容詞シシ語尾には終止法と中止法があり、 終止法が典型的に、強調の場合に用いられた その他形容詞の特殊な用法について シシ語尾の用法 終止法に使われる場合と特…

京健治(2003.12)否定過去の助動詞「なんだ」に関する一考察

京健治(2003.12)「否定過去の助動詞「なんだ」に関する一考察」『語文研究』96 要点 否定過去のナンダの成立と、特に連用形ナンデ、並立助詞的ナンダリに注目しつつ、 ナンの由来にはヌアッタ説を採る 前提と問題 ナンダ→ナカッタへの交替については詳しい…

北原保雄・大倉浩(1997)言語資料としての『外五十番』

北原保雄・大倉浩(1997)「言語資料としての『外五十番』」『狂言記外五十番の研究』勉誠社 前提として第2章「所収曲について」 外五十番は複数台本に依拠している 一部は虎明本に近く、古態を示すが、 一部は和泉流三宅家の三百番集本に近い、新しい面も見…

北原保雄・大倉浩(1997)『狂言記外五十番』について

北原保雄・大倉浩(1997)「『狂言記外五十番』について」『狂言記外五十番の研究』勉誠社*1 要点 狂言記他3種と性格の異なる外五十番と、他3種の関係について 狂言記の刊行と性格 以下の順に刊行されている p.540 特筆すべきこととして、 外五十番と続狂言…

北原保雄・吉見孝夫(1987)言語資料としての『狂言記拾遺』

北原保雄・吉見孝夫(1987)「言語資料としての『狂言記拾遺』」『狂言記拾遺の研究』勉誠社 要点 狂言記拾遺(1730刊)の言語的特徴と狂言記内での位置付けについて 注意点と流派的な位置付け まず、狂言記が読み物として刊行されたことに留意すべき 「これ…

北原保雄・小林賢次(1985)言語資料としての『続狂言記』(条件表現の節)

北原保雄・小林賢次(1985)「言語資料としての『続狂言記』」『続狂言記の研究』勉誠社 の、昨日の続き 仮定表現 この頃の順接仮定条件表現の重要な点3つ 1 未然形+ばの衰退 2 ならば・たらばの発達 3 仮定の「已然形+ば」の発達 1 未然形+ばの衰退につ…

北原保雄・小林賢次(1985)言語資料としての『続狂言記』

北原保雄・小林賢次(1985)「言語資料としての『続狂言記』」『続狂言記の研究』勉誠社*1 要点 『続狂言記』(1700刊)の言語的特徴について 四つ仮名・開合 正篇同様乱れているが、ただ乱れているのではなく、一定の表記意識のもとにある 正篇で「ぢや」と…

北原保雄・大倉浩(1983)言語資料としての『狂言記正篇』

北原保雄・大倉浩(1983)「言語資料としての『狂言記正篇』」『狂言記の研究』勉誠社*1 要点 版本『狂言記』(1660刊)の言語的特徴について 四つ仮名・開合 四つ仮名・開合に混乱がある 字[じ]がたりませぬ/ぢがたりませぬ 連濁の場合ですら間違ってお…

岩田美穂(2007.12)「ノ・ダノ」並列の変遷:例示並列形式としての位置づけについて

岩田美穂(2007.12)「「ノ・ダノ」並列の変遷:例示並列形式としての位置づけについて」『語文』89 要点 並列のノ・ダノが引用のトに支えられて成立した形式であること、 他の並列形式と同様の変化の方向性を持つものとして捉えられることを示す 前提 「言…

信太知子(2006.3)衰退期の連体形準体法と準体助詞「の」:句構造の観点から

信太知子(2006.3)「衰退期の連体形準体法と準体助詞「の」:句構造の観点から」『神女大国文』 要点 信太(1976)の再検討 信太(1976) 準体ノの起源を「我がの」の格助詞+ノに求め、 「我がの」の発生が中古、活用語+ノの発生が中世末~近世初頭という…

坂井美日(2015.7)上方語における準体の歴史的変化

坂井美日(2015.7)「上方語における準体の歴史的変化」『日本語の研究』11(3) 要点 ゼロ準体からノ準体の移行について、 ノの付き初めには形状・事柄のタイプに差はなく、ノ準体化は形状タイプが先に進行したことを示し、 ノの起源に「属格句ノ」の、連体形…

彦坂佳宣(2006.10)準体助詞の全国分布とその成立経緯

彦坂佳宣(2006.10)「準体助詞の全国分布とその成立経緯」『日本語の研究』2-4 要点 方言における準体助詞について、 分布と問題 準体助詞に関連する用法を以下のように分類(狭義の準体助詞はc, d) a 連体格 b 連体格的準体助詞:今のあるじも前のも c 代…

岡部嘉幸(2011.3)否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に

岡部嘉幸(2011.3)「否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に」『千葉大学人文研究』40 問題 現代語においては必ずは肯定述語と呼応するが、江戸語に否定述語と共起する例がある 女房「そう仕なせへ。必(かならす)好男(いゝをとこ)を持…

土岐留美江(1992.6)江戸時代における助動詞「う」:現代語への変遷

土岐留美江(1992.6)「江戸時代における助動詞「う」:現代語への変遷」『都大論究』29、(2010)『意志表現を中心とした日本語モダリティの通時的研究』ひつじ書房 を参照 要点 虎明本、近松世話浄瑠璃、浮世床を対象として、助動詞ウの変遷を見て、 積極…

荻野千砂子(2003.12)不定詞「ドウ」の発達

荻野千砂子(2003.12)「不定詞「ドウ」の発達」『語文研究』96 問題 イカ・何ト・ドウの三種の不定詞 ドウが近世に伸長、近世前期までの疑問には何トが主でドウは未発達 室町末から近世前期のドウを分析する 近世前期 コソア三系統に対応する不定称として、…

浅川哲也(2014.6)江戸時代末期人情本の活字化資料にみられる諸問題:「あるのです」は「あるです」

浅川哲也(2014.6)「江戸時代末期人情本の活字化資料にみられる諸問題:「あるのです」は「あるです」」『日本語研究(首都大学東京)』34 問題 人情本の活字化資料には人情本刊行会版があるが、その本文は問題を孕む 版本本文と人情本刊行会版の本文を比較…

山口響史(2016.7)テイタダクの成立と展開

山口響史(2016.7)「テイタダクの成立と展開」『国語国文』85-7 要点 授受補助動詞テイタダクの成立と、テモラウの敬語形としての地位を確立するまでの過程について、 当初話し手起点だったイタダクが受け手起点の機能を獲得することでテモラウの敬語形とな…