ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

山本淳(2003.6)近世庄内方言の文末助辞ケ

山本淳(2003.6)「近世庄内方言の文末助辞ケ」『米沢国語国文』32. 要点 近世庄内郷土本を用いて、文末助辞ケの用法を(渋谷1999と比較しつつ)調査する。 形式的な面から、 状態用言はル形のみ、動作・変化動詞はル・タに接続し、江戸語・東京語より接続先…

渋谷勝己(1999.10)文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究

渋谷勝己(1999.10)「文末詞「ケ」:三つの体系における対照研究」『近代語研究10』武蔵野書院. 要点 文末詞ケについて、現代東京方言、山形市方言、江戸語の間で対照を行い、山形市方言の用法が広く、東京方言の用法が限定的であることを示す。 東京方言の…

山口翔平(2022.3)『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例

山口翔平(2022.3)「『万葉集』における動詞「さす」の意味用法:上代における自他両用動詞の一例」『国文学』106. 要点 上代において既に自他両用である多義的な動詞サス(光がさす/針をさす)を事例として、古代語の自他両用動詞について考える。 用法整…

山本淳(2000.3)近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって

山本淳(2000.3)「近世庄内地方の洒落本類における助詞サをめぐって」『山形方言」32. 要点 庄内郷土本(洒落本)4種を使用して、近世庄内の格助詞サ・エ・ニの用法を分析すると、以下の通り。 p.15 サは共通語のエに共通する要素を持ち、ニの領分に進出・…

大坪併治(1982.5)原因・理由を表はす文末のバナリについて

大坪併治(1982.5)「原因・理由を表はす文末のバナリについて」『訓点語と訓点資料』67. 要点 以下の已然形バ+ナリが、上代にはなく、中古には和歌、和文(散文)、訓読文に見られる。この文体間の差について、比較考察を行う。 吹く風の色の千種に見えつ…

野村剛史(2015.1)中古の連体形ナリ:『源氏物語』を中心に

野村剛史(2015.1)「中古の連体形ナリ:『源氏物語』を中心に」『国語国文』84(1). 要点 中古のナリ文と現代のノダ文の対照を行う。*1 まず、連体ナリについての数値的な事柄、 推定的要素がつくナリ文が全体の約55% ナリ文の準体部分はコト準体が多いが、…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(ノダ文・ナリ文の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を事例として扱う(前半は前の記事で)。 「事情文」(説明…

野村剛史(2015.5)通時態から共時態へ:その2(アスペクト・テンス体系の場合)

野村剛史(2015.5)「通時態から共時態へ:その2」『国語国文』84(5). 要点 野村(2013)で主張した「共時態の記述に際する通時的研究の重要性(不可欠性)」について、アスペクト・テンス、ノダ文を例にして述べる(後半は次の記事で) 言語学研究会の提示…

野村剛史(2013.10)通時態から共時態へ

野村剛史(2013.10)「通時態から共時態へ」『日本語学』32(12). 要点 ソシュールの「共時態の記述に通時態を持ち込んではならない」という立場は、受け入れ難く、共時態記述には通時的研究が不可欠であることを主張する。 以下、ノダ文を例に、共時態と通時…

高山善行(2021.3)中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討

高山善行(2021.3)「中古語助動詞の分類について:「連体ナリ」との承接の再検討」『国語国文学(福井大学)』60. 要点 北原の連体ナリの分類についての疑問点 ① 準体句内にモダリティが生起できるのにも関わらず、連体ナリに客体的表現だけが上接すること …

常盤智子(2013.10)富田源太郎著『英和婦人用会話』にみられる助動詞「ウ」+終助詞「ワ」について

常盤智子(2013.10)「富田源太郎著『英和婦人用会話』にみられる助動詞「ウ」+終助詞「ワ」について」『近代語研究17』武蔵野書院. 要点 富田源太郎(1867?-1917)による英学会話書『英和婦人用会話』(1914刊)は、当時の口頭語が反映されるものと見られ…

村上謙(2013.12)明治大正期関西弁資料としての曽我廼家五郎喜劇脚本群

村上謙(2013.12)「明治大正期関西弁資料としての曽我廼家五郎喜劇脚本群」『埼玉大学国語教育論叢』16. 要点 喜劇俳優兼脚本家の曽我廼家五郎(1877生)による関西弁喜劇脚本群の資料性について検討する p.5 全体的な資料性について、 五郎作品群には、関…

村上謙(2006.10)近世前期上方における尊敬語表現「テ+指定辞」の成立について

村上謙(2006.10)「近世前期上方における尊敬語表現「テ+指定辞」の成立について」『日本語の研究』2(4). 要点 近世前期上方に成立した、敬意を有するテ+指定辞(e.g. 聞いてじゃ)の成立に、「テゴザルからの変化」説を主張する 以下の従来説は、いずれ…

長崎靖子(2004.11)江戸語から東京語に至る断定辞としての終助詞「よ」の変遷

長崎靖子(2004.11)「江戸語から東京語に至る断定辞としての終助詞「よ」の変遷」『近代語研究12』武蔵野書院. 要点 前稿(2004.3)で示した江戸語の断定を表すヨの通時的変遷を、サとの比較も含めて考える 江戸語の断定のヨは女性の使用に(結果的に)制約…

長崎靖子(2004.3)『浮世風呂』『浮世床』に見る断定辞としての終助詞「よ」の位相:断定辞としての終助詞「さ」との比較から

長崎靖子(2004.3)「『浮世風呂』『浮世床』に見る断定辞としての終助詞「よ」の位相:断定辞としての終助詞「さ」との比較から」『会誌(日本女子大学)』23. 要点 江戸語で断定を表すヨの位相を、サ(長崎1998)との比較から考える ヨは、 男女ともぞんざ…

長崎靖子(1998.3)江戸語の終助詞「さ」の機能に関する一考察

長崎靖子(1998.3)「江戸語の終助詞「さ」の機能に関する一考察」『国語学』192. 要点 現代語では終助詞サは仲間内のぞんざいな会話に使用されるものとされるが、 江戸・東京語では、幕末までは丁寧な会話にも使用される (福助→金)さやうさ 是ぢやア豊年…

勝又隆(2014.7)古代日本語におけるモノナリ文と連体ナリ文の構造的差異について

勝又隆(2014.7)「古代日本語におけるモノナリ文と連体ナリ文の構造的差異について」『西日本国語国文学』1. 要点 古代語の主節述部におけるモノナリと連体ナリは、以下の特徴を持つ。 Vナリは係り結びと共起しないが(高山2002)、モノナリはNナリ同様共起…

葛西太一(2020.8)日本書紀における語りの方法と定型化:文末表現「縁也」による歴史叙述

葛西太一(2020.8)「日本書紀における語りの方法と定型化:文末表現「縁也」による歴史叙述」『和漢比較文学』65. 要点 書紀における、述作者の立場による注釈的記事が双行ではなく本行に現れるケースを「語り」として取り上げ、各記事の述作方針について考…

大坪併治(1969.6)提示語法について:訓点資料と今昔物語とを中心に

大坪併治(1969.6)「提示語法について:訓点資料と今昔物語とを中心に」『佐伯博士古稀記念国語学論集』表現社. 要点 提示語法(「文中のある語を無格のままで提示し、これを代名詞で受けて特定の格を与える形式」)は、訓点資料に幅広く認められ、 和漢混…

妙摩光代(1979.8)『中華若木詩抄』に見る文末の「也」と「ソ」

妙摩光代(1979.8)「『中華若木詩抄』に見る文末の「也」と「ソ」」『田邊博士古稀記念国語助詞助動詞論叢』桜楓社. 要点 中華若木詩抄のナリ・ゾについて、以下の特徴を得た 先行論が博士家系を対象とすること、中華若木詩抄が単純な聞書でない(手控的性…

大鹿薫久(2007.4)「連体なり」の性格:源氏物語の文章を通して

大鹿薫久(2007.4)「「連体なり」の性格:源氏物語の文章を通して」加藤昌嘉(編)『講座源氏物語研究 第八巻 源氏物語のことばと表現』おうふう.*1 要点 連体ナリが以下の性質を持つことに基づいて、その意味と、連体ナリの性格について考える ①ナリ∅(ナ…

坂詰力治(1972.9)清原宣賢講『論語抄』における文末表現について:指定辞「ゾ」「ナリ」を中心として

坂詰力治(1972.9)「清原宣賢講『論語抄』における文末表現について:指定辞「ゾ」「ナリ」を中心として」『国語学研究』11. 要点 論語抄(宣賢抄)と論語聴塵におけるゾ・ナリについて、 聴塵においては文はナリもしくは動詞・助動詞で終止するが、抄にお…

岩間智昭(2022.2)近世口語資料としての近世中期勧化本試論:菅原智洞作『浄土勧化文選』を対象に

岩間智昭(2022.2)「近世口語資料としての近世中期勧化本試論:菅原智洞作『浄土勧化文選』を対象に」『国文学論叢』67. 要点 以下の3点の分析より、『浄土勧化文選』(宝暦11[1761]刊)が、「「非中立的」な表現を内包する」資料であり、文語性の高い資…

田島光平(1964.3)連体形承接の「なり」について:竹取物語を中心にして

田島光平(1964.3)「連体形承接の「なり」について:竹取物語を中心にして」『国語学』56. 要点 結論を先に挙げる ① 平安時代初期の連体ナリは、連体形が体言的である場合(いまだ見ぬ(モノ)なり)を除き、根拠をもって相手に説明する場合に用いられる辞…

中川祐治(2001.3)中世末期における指定辞「ぢゃ」の構文的機能について:『天草版平家物語』と原拠本『平家物語』との比較を手がかりに

中川祐治(2001.3)「中世末期における指定辞「ぢゃ」の構文的機能について:『天草版平家物語』と原拠本『平家物語』との比較を手がかりに」『国文学攷』169. 要点 平家の対照に基づいて、ヂャの機能について考える ヂャは登場人物の会話・心情、喜一の相づ…

高山善行(1994.8)〈体言ナリ〉と〈連体ナリ〉の差異について

高山善行(1994.8)「〈体言ナリ〉と〈連体ナリ〉の差異について」『国語語彙史の研究14』和泉書院. 要点 中古のNナリとV連体ナリは、以下の差異を持つ p.234(先にまとめ) 分析 下接語について Vナリは否定と結びつきにくい:ニアリが連体ナリの役割を果た…

大坪併治(1981)提示語法

大坪併治(1981)「提示語法」『平安時代における訓点語の文法』風間書房. *1 要点 「文中のある語を無格のままで提示し、これを代名詞で受けて特定の格を与へる形式」を「提示語法」と呼ぶと、平安時代の訓点語にはそれを幅広く認めることができる 第一義、…

近藤泰弘(1989.3)中古語の分裂文について

近藤泰弘(1989.3)「中古語の分裂文について」『日本女子大学紀要 文学部』38(近藤2000「中古語の分裂文」を参照). 要点 中古語の分裂文には、主語がモノ・ヒトとして解釈されるが、これが石垣法則に反するという問題がある [たけきものゝふの心をもなぐ…

矢島正浩(1989.1)近松世話物における断定ナリ終止形残存の意義

矢島正浩(1989.1)「近松世話物における断定ナリ終止形残存の意義」『文芸研究 文芸・言語・思想』120. 要点 旧形式ナリを以下のように分類すると、 A 文を完結させ得ない(いわゆる並列) B 文を完結させ得る イ 話手の判断の加わる余地無し ロ 話手の判断…

ハイコ・ナロック(2004.10)メリ、ベシの過去と「連体ナリ」

ハイコ・ナロック(2004.10)「メリ、ベシの過去と「連体ナリ」」『国語国文』73(10). 要点 北原の連体ナリを基準とした分類に、承接順序がおかしいものがあることに注目して、メリ・ベシと過去の承接について考える メリ・終止ナリ > 連体ナリ かつ キ・ツ…