ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

上代

釘貫亨(2016.3)上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造

釘貫亨(2016.3)「上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造」『万葉』221 要点 ムの意志・推量の意について、人称ではなく上接語の意志性がその意味の決定に関与することを示す 前提 活用助辞(いわゆる助動詞)ムが、ム語尾動詞のうち「精神的心理的…

栗田岳(2010.9)上代特殊語法攷:「ずは」について

栗田岳(2010.9)「上代特殊語法攷:「ずは」について」『万葉』207 要点 上代特殊語法ズハについて、その特殊性を、否定から離れ得る環境における「不望」の意の前景化にあると考える 前提と問題 特殊語法ズハを基本的には仮定条件であると考えた上で、その…

小柳智一(1996.3)禁止と制止:上代の禁止表現について

小柳智一(1996.3)「禁止と制止:上代の禁止表現について」『国語学』184 要点 上代(・中古)の禁止について、 禁止する対象によって、禁止(事前阻止)、制止に分けられ、ナーソ・ナーソネ・ナーはその両方(その中間の抑止)を表すが、ーナは強い禁止の…

青木博史(2004.9)ミ語法の構文的性格:古典語における例外的形式

青木博史(2004.9)「ミ語法の構文的性格:古典語における例外的形式」『日本語文法』4-2 要点 ミ語法のヲを、対象語を示すヲとして捉える 前提 ミ語法に残る問題 ヲを対格、ミを他動詞性のものとしてよいか 属性形容詞―主語(命を惜しみ)、感情形容詞―対象…

竹内史郎(2004.1)ミ語法の構文的意味と形態的側面

竹内史郎(2004.1)「ミ語法の構文的意味と形態的側面」『国語学』55-1 要点 ミ語法をマ行四段動詞と関連付けることが不適切であり、形容詞的に見るべきであることを、ミ語法の構文と形態が持つ形容詞性の観点から述べる 前提 ミ語法をマ行四段動詞と関連付…

竹内史郎(2008.4)古代日本語の格助詞ヲの標示域とその変化

竹内史郎(2008.4)「古代日本語の格助詞ヲの標示域とその変化」『国語と国文学』85-4 問題 現代語の格助詞ヲは他動詞文の目的語標示で、自動詞などの述語の唯一項を標示しない。すなわちヲは、 少なくとも2つの補語が含まれる構文に現れる 複数の補語のうち…

小柳智一(2004.7)「ずは」の語法:仮定条件句

小柳智一(2004.7)「「ずは」の語法:仮定条件句」『万葉』189 要点 特殊語法「ずは」について、通常の「ずは」と共通する解釈(仮定条件句)を提示し、 その差異について、前句と後句の関係性が、通常の場合は順行的、特殊語法の場合は逆行的であるものと…

古川大悟(2019.1)助動詞マシの意味

古川大悟(2019.1)「助動詞マシの意味」『国語国文』88-1 要点 マシの意味を「対象事態を可能性として提示し、別の可能性と比較する」こととして捉え、その有効性を示す 問題 マシの意味を反実仮想とすることの問題点(山口1968)*1 反実・反事実は表現対象…

仁科明(2018.11)「ある」ことの希望:万葉集の「もが(も)」と「てしか(も)」

仁科明(2018.11)「「ある」ことの希望:万葉集の「もが(も)」と「てしか(も)」」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 要点 仁科の叙法形式の整理のうち、「非現実事態を表しながら、未然形に接続しない」という問題を持つ形式として、もが(も)、て…

楊瓊(2015.3)上代の接続詞「しからば」の発生について

楊瓊(2015.3)「上代の接続詞「しからば」の発生について」『同志社国文学』82 問題 日本語接続詞は中古においては未発達だが、シカラバの例が上代に既にある 万葉集唯一のシカラバの仮名書き例 人妻とあぜかそを言はむ然らばか(志可良婆加)隣の衣を借り…

栗田岳(2017.3)助詞ハの諸相

栗田岳(2017.3)「助詞ハの諸相」『萬葉』223 要点 主題でないハが「非存在対象」の言語化であることに基づき、 ハの本質的性格を「言語上のものとして定位された対象を提示すること」と位置づける 問題 文中の体言類+助詞ハによる主題の提示はあくまでも…

山口佳紀(2016.3)『万葉集』におけるテハとテバの用法

山口佳紀(2016.3)「『万葉集』におけるテハとテバの用法」『成蹊大学文学部紀要』51 要点 上代におけるテハ・テバの用法整理と問題例の処理 テハの用法3種 A:前件として既定の事態を述べて、後件にその後に生ずる事態を述べるタイプ。してからは・したあ…

小田勝(2010.2)疑問詞の結び

小田勝(2010.2)「疑問詞の結び」『岐阜聖徳学園大学紀要 教育学部編』49 要点 疑問詞疑問文における結びの形について、上代~中古の実態を調査し、疑問詞~終止形/連体形の両型が存することを説明する 問題 疑問詞疑問文の文末に、連体形・終止形の両方が…

肥爪周二(2018.11)上代語における文節境界の濁音化

肥爪周二(2018.11)「上代語における文節境界の濁音化」沖森卓也編『歴史言語学の射程』三省堂 前提 連濁(以下、清音の濁音化)は融合、促音挿入は分割というイメージがあるが、以下のような語例を見ると、どちらも複合語で、形態素の結合度に差はない み…

仁科明(2007.7)「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員

仁科明(2007.7)「「終止なり」の上代と中古:体系変化と成員」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 終止ナリの上代から中古への変容について 問題 終止ナリは上代と中古で断絶するが、この連続性をどう考えるか 終止ナリに対応する形式…

仁科明(2016.6)状況・論理・価値:上代の「べし」と非現実事態

仁科明(2016.6)「状況・論理・価値:上代の「べし」と非現実事態」『国文学研究(早稲田大学)』179 以下前提を前稿(仁科2016.3)から 事態のあり方への把握と述べ方について、 まず、発話時を基準とした上での現実領域に属するか非現実領域に属するか 現…

仁科明(2016.3)上代の「らむ」:述語体系内の位置と用法

仁科明(2016.3)「上代の「らむ」:述語体系内の位置と用法」『国語と国文学』93-3 要点 上代の「らむ」に関して、 上代語の述語体系中の「らむ」を「現在未確認事態・臆言」の形式として位置付け、 「らし」との違いを明確にする 上代の述語体系 事態のあ…

仁科明(2014.9)「無色性」と「無標性」:万葉集運動動詞の基本形終止、再考

仁科明(2014.9)「「無色性」と「無標性」:万葉集運動動詞の基本形終止、再考」『日本語文法』14-2 要点 基本形(終止形・連体形)終止の消極性は以下の2側面を持ち、基本形の用法はどちらかの側面が前面に出たものと説明できる 形式自体の無色性 体系内で…

蜂矢真弓(2018.10)一音節名詞被覆形

蜂矢真弓(2018.10)「一音節名詞被覆形」青木博史・小柳智一・吉田永弘編『日本語文法史研究 4』ひつじ書房 要点 1音節名詞被覆形とそれに対応する1音節名詞露出形・2音節名詞露出形の分布について 2音節を取るのは、単独母音を避けるためか、もしくは別語…

榎木久薫(1996.9)平安初期訓点資料における使役の格表示:ヲシテの使用に着目して

榎木久薫(1996.9)「平安初期訓点資料における使役の格表示:ヲシテの使用に着目して」『訓点語と訓点資料』98 要点 平安初期訓点資料における使役の格標示は「~ヲ~シム」「~ニ~シム」「~ヲシテ~シム」の性格について これらは中期に「~ヲシテ~シム…

竹内史郎(2007.7)節の構造変化による接続助詞の形成

竹内史郎(2007.7)「節の構造変化による接続助詞の形成」青木博史編『日本語の構造変化と文法化』ひつじ書房 要点 ガ(格助詞→接続助詞)に代表される、節の構造変化による接続助詞の形成について、 他の事例の指摘 契機や要因の考察 ガ・ヲ ガ Xノ連体ガ:…

吉井健(2018.6)「結果的表現」から見た上代・中古の可能

吉井健(2018.6)「「結果的表現」から見た上代・中古の可能」『井手至博士追悼 萬葉語文研究 特別集』和泉書院 ユ・ラユ、ル・ラル ユ・ラユの場合、前接動詞は忘る・取る・寝のみで、否定を伴う例ばかり 平安のル・ラルも同様 肯定可能も、「見おろさるる…

小柳智一(2012.12)被覆形・情態言・形状言・情態性語基

小柳智一(2012.12)「被覆形・情態言・形状言・情態性語基」高山善行・青木博史・福田嘉一郎編『日本語文法史研究 1』ひつじ書房 小柳(2011)とセット hjl.hatenablog.com 要点 いわゆる被覆形周辺の概念整理と、未然形の成立 有坂の「被覆形」 単独語形を…

小柳智一(2011.3)上代の動詞未然形:制度形成としての文法化

小柳智一(2011.3)「上代の動詞未然形:制度形成としての文法化」万葉語学文学研究会編『万葉語文研究 6』和泉書院 要点 上代の未然形が表す機能を整理することで未然形の機能を分割し、成立論に及ぶ 未然形の整理 上代の動詞活用に対する2つの立場 成立論…

高山善行(2014.1)条件表現とモダリティ表現の接点:「む」の仮定用法をめぐって

高山善行(2014.1)「条件表現とモダリティ表現の接点:「む」の仮定用法をめぐって」益岡隆志・大島資生・橋本修・堀江薫・前田直子・丸山岳彦(編)『日本語複文構文の研究』ひつじ書房 要点 「む」の文中用法の一つである仮定用法についての記述 仮定のム…

佐々木隆(2012.3)二つの目的語をもつ上代語の構文:助詞「を」の機能

佐々木隆(2012.3)「二つの目的語をもつ上代語の構文:助詞「を」の機能」『人文』10 要点 上代の「二重ヲ格」(に見える)構文についての分析 上代の場合、2つの目的語のうち1つめだけがヲを伴う「二重目的語構文」と呼ぶべきもの 上代の二重目的語構文 上…

小柳智一(2014.10)「じもの」考:比喩・注釈

小柳智一(2014.10)「「じもの」考:比喩・注釈」『萬葉集研究』35(塙書房) 要点 次のような「じもの」について 鳥じもの海に浮きゐて沖つ波騒くを聞けばあまた悲しも(万1184) 吾妹子が形見に置ける緑児の乞ひ泣くごとに取り委す物しなければ男じもの腋…

岡村弘樹(2017.3)二段活用の一段化開始時期と下一段活用の成立:単音節動詞を中心に

岡村弘樹(2017.3)「二段活用の一段化開始時期と下一段活用の成立:単音節動詞を中心に」『訓点語と訓点資料』138 要点 単音節動詞の一段化が上二段活用と下二段活用で異なる理由に関して 旧上一段活用の存在を想定することにより、一段化が「一段活用と同…

安本真弓(2010.3)古代日本語における形容詞と動詞の対応形態とその史的変遷

安本真弓(2010.3)「古代日本語における形容詞と動詞の対応形態とその史的変遷」『国語学研究』49 要点 対応関係のある動詞・形容詞組について整理 対応関係に3種類(形態としては5種類) 情態言から動詞・形容詞 動詞から形容詞 形容詞から動詞 分布のあり…

野村剛史(2001.1)ヤによる係り結びの展開

野村剛史(2001.1)「ヤによる係り結びの展開」『国語国文』70-1 要点 ヤによる係り結びに倒置・注釈・挿入説を想定せず、カの係り結びの位置に侵入したものと考える ヤの性格と係り結び 終助詞・間投助詞ヤは呼びかけ、問いかけなどの対者的性格が大方認め…