ronbun yomu

言語学(主に日本語文法史)の論文を読みます

2019-01-01から1年間の記事一覧

安田尚道(2003.4)石塚龍麿と橋本進吉:上代特殊仮名遣の研究史を再検討する

安田尚道(2003.4)「石塚龍麿と橋本進吉:上代特殊仮名遣の研究史を再検討する」『国語学』54(2) 要点 橋本進吉は上代特殊仮名遣を「再発見」してはいないし、 石塚龍麿も既に音韻の区別であったと考えていたのではないか 前提 上代特殊仮名遣の発見につい…

野間純平(2013.3)高知県四万十市西土佐方言における準体助詞

野間純平(2013.3)「高知県四万十市西土佐方言における準体助詞」『阪大社会言語学研究ノート』11 要点 四万十市西土佐方言の準体助詞について、以下の点を示す ガが基本的にノとパラレルで用いられること、 モノ準体に属格助詞を介する(ノガ)場合がある…

坂井美日(2012.3)現代熊本市方言の準体助詞:「ツ」と「ト」の違いについて

坂井美日(2012.3)「現代熊本市方言の準体助詞:「ツ」と「ト」の違いについて」『阪大社会言語学研究ノート』10 ir.library.osaka-u.ac.jp 要点 熊本市方言の準体助詞ツ・トの使い分けについて、 これが形態音韻面・意味面での相補分布ではなく、統語的な…

堀畑正臣(2018.2)動詞の自他対応による方言の成立とその分布:「かたる」と「のさる」をめぐって

堀畑正臣(2018.2)「動詞の自他対応による方言の成立とその分布:「かたる」と「のさる」をめぐって」西岡宣明ほか編『ことばを編む』開拓社 要点 動詞の自他対立における、方言独自の発達事例について 「かたる」と「かてる」 「加わる」の意で用いられる…

高桑恵子(2015.9)「御覧ず」の関係規定性:源氏物語における

高桑恵子(2015.9)「「御覧ず」の関係規定性:源氏物語における」『国学院雑誌』116(9) 要点 「御覧ず」と「見たまふ」の違いについて、御覧ずには関係規定性が認められ、見たまふにはそれがないことを示す 前提 御覧ずは見たまふより敬意が高いとされるが…

坂井美日(2015.7)上方語における準体の歴史的変化

坂井美日(2015.7)「上方語における準体の歴史的変化」『日本語の研究』11(3) 要点 ゼロ準体からノ準体の移行について、 ノの付き初めには形状・事柄のタイプに差はなく、ノ準体化は形状タイプが先に進行したことを示し、 ノの起源に「属格句ノ」の、連体形…

松本昂大(2016.10)古代語の移動動詞と「起点」「経路」:今昔物語集の「より」「を」

松本昂大(2016.10)「古代語の移動動詞と「起点」「経路」:今昔物語集の「より」「を」」『日本語の研究』12(4) 要点 移動動詞の意味的特徴によって、起点を表す格助詞の用法が決定される 前提 ヨリ・ヲは概ね、起点・経路を表すとされている が、万葉集に…

佐藤嘉惟(2018.6)世阿弥自筆能本の表音的表記:表記の揺れと執筆過程

佐藤嘉惟(2018.6)「世阿弥自筆能本の表音的表記:表記の揺れと執筆過程」『能と狂言』16 要点 表音的とされてきた世阿弥能本に非表音的箇所があることを指摘し、 その表記揺れの生まれる過程に書写行為があったことを想定 研究史 能本への注目は、日本語史…

大鹿薫久(1999.3)「べし」の文法的意味について

大鹿薫久(1999.3)「「べし」の文法的意味について」『ことばとことのは 森重先生喜寿記念』和泉書院 要点 上代のベシの意味について 他のモダリティとの相違点について、対象的・作用的意味の両方を認めることで説明する 前提 上代語ベシに、推量周辺のム…

中沢紀子(2004.11)連体修飾節にみられるウ・ウズル

中沢紀子(2004.11)「連体修飾節にみられるウ・ウズル」『筑波日本語研究』9 要点 中世末期における連体用法のウ・ウズルについて、以下の点を示す タリ・テアル・ズとの共起が少ない 形式名詞を修飾しやすい 連体節の事態が主節より後のもの 前提 ウ・ウズ…

永田里美(2018.3)『源氏物語』における反語表現:会話文中の「ヤハ」、「カハ」について

永田里美(2018.3)「『源氏物語』における反語表現:会話文中の「ヤハ」、「カハ」について」『跡見学園女子大学文学部紀要』53 要点 いわゆる反語のヤハ・カハの差異を示す ヤハの結びは既実現要素、カハの結びはムなどの未実現要素に偏り、 ヤハは聞き手…

岡﨑友子(2011.11)指示詞系接続語の歴史的変化:中古の「カクテ・サテ」を中心に

岡﨑友子(2011.11)「指示詞系接続語の歴史的変化:中古の「カクテ・サテ」を中心に」青木博史編『日本語文法の歴史と変化』くろしお出版 要点 指示詞接続語カクテ・サテについて、カクテが衰退し、サテが指示詞の機能を失って接続語・感動詞として展開して…

木部暢子(2019.2)対格標示形式の地域差:無助詞形をめぐって

木部暢子(2019.2)「対格標示形式の地域差:無助詞形をめぐって」『東京外国語大学国際日本学研究報告』5 要点 対格標示形式の地域差、各地の出現要因について、方言コーパスを用いつつ示す 前提 主格・対格標示の地域間の差異 弘前:主格・対格ともに無助…

信太知子(2007.3)古代語終止形の機能:終止連体同形化と関連させて

信太知子(2007.3)「古代語終止形の機能:終止連体同形化と関連させて」『 神女大国文』18 要点 終止形連体形の合流について、連用終止同形の活用語が、その異形態化を目指したものであると考える 問題 終止形連用形が同形の語において、それがどちらである…

近藤泰弘(2019.2)平安時代の敬語の形態論

近藤泰弘(2019.2)「平安時代の敬語の形態論」『日本語学』38-2 問題 「敬語動詞の視点の中和」の問題 おはす・まゐるは非敬語形が行く・来・ありだが、敬語形になるとダイクシスが一見分からなくなる 行く・来の持つ方向性の視点と、おはす・まゐるの持つ…

矢島正浩(2018.5)逆接確定辞を含む[接続詞]の歴史

矢島正浩(2018.5)「逆接確定辞を含む[接続詞]の歴史」藤田保幸・山崎誠編『形式語研究の現在』和泉書院 要点 接続詞の発達には東西差があり、西は接続助詞を接続詞として転用する「並列性」、東は指示詞で先行文脈をまとめる「捉え直し性」として整理さ…

彦坂佳宣(2006.10)準体助詞の全国分布とその成立経緯

彦坂佳宣(2006.10)「準体助詞の全国分布とその成立経緯」『日本語の研究』2-4 要点 方言における準体助詞について、 分布と問題 準体助詞に関連する用法を以下のように分類(狭義の準体助詞はc, d) a 連体格 b 連体格的準体助詞:今のあるじも前のも c 代…

田村隆(2007.12)いとやむごとなききはにはあらぬが:教科書の源氏物語

田村隆(2007.12)「いとやむごとなききはにはあらぬが:教科書の源氏物語」『語文研究』104 要点 桐壺冒頭部が、ほぼ逆接として読まれてきたことを示す 問題 「いとやむごとなききはにはあらぬが」の「が」についての教科書的説明として、同格の格助詞であ…

日高水穂(2013.10)複合辞「という」の文法化の地域差

日高水穂(2013.10)「複合辞「という」の文法化の地域差」藤田保幸編『形式語研究論集』和泉書院 要点 「という」を事例として「文法化の地域差」を考える 前提 共通語において、トイウ/ッテ/ッチュウ・ッツウ 引用・伝聞に用いられるが、ッチュウ・ッツ…

松尾弘徳(2000.6)天理図書館蔵『狂言六義』の原因・理由を表す条件句:ホドニとニヨッテを中心に

松尾弘徳(2000.6)「天理図書館蔵『狂言六義』の原因・理由を表す条件句:ホドニとニヨッテを中心に」『語文研究』89 要点 ホドニ・ニヨッテの交替現象が、天理本内部で見られることを指摘し、 従来虎明本→虎寛本の時期での交替現象と見られたものを、むし…

岡部嘉幸(2011.3)否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に

岡部嘉幸(2011.3)「否定と共起する「必ず」について:近世後期江戸語を中心に」『千葉大学人文研究』40 問題 現代語においては必ずは肯定述語と呼応するが、江戸語に否定述語と共起する例がある 女房「そう仕なせへ。必(かならす)好男(いゝをとこ)を持…

釘貫亨(2016.3)上代語意志・推量の助辞ムの成立と展開

釘貫亨(2016.3)「上代語意志・推量の助辞ムの成立と展開」『訓点語と訓点資料』136 前提 活用助辞ム(いわゆる助動詞)が、精神的心理的意味を持つム語尾動詞から分出されて成立したと考える(釘貫2014) ムの意味は人称によって決まるのではなく、上接語…

釘貫亨(2016.3)上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造

釘貫亨(2016.3)「上代語活用助辞ムの意味配置に関与する統語構造」『万葉』221 要点 ムの意志・推量の意について、人称ではなく上接語の意志性がその意味の決定に関与することを示す 前提 活用助辞(いわゆる助動詞)ムが、ム語尾動詞のうち「精神的心理的…

栗田岳(2010.9)上代特殊語法攷:「ずは」について

栗田岳(2010.9)「上代特殊語法攷:「ずは」について」『万葉』207 要点 上代特殊語法ズハについて、その特殊性を、否定から離れ得る環境における「不望」の意の前景化にあると考える 前提と問題 特殊語法ズハを基本的には仮定条件であると考えた上で、その…

細川英雄(1982.7)『天草版平家物語』の「な—そ」をめぐって

細川英雄(1982.7)「『天草版平家物語』の「な—そ」をめぐって」『国語学研究と資料』6 前提 禁止表現「ナーソ」は室町末から江戸初期にかけて口頭語から姿を消す 否定の要素が文頭に来る構造が極めて稀であるため その過渡期の資料として天草平家を見ると…

吉田永弘(2012.3)平家物語と日本語史

吉田永弘(2012.3)「平家物語と日本語史」『愛知県立大学説林』60 要点 原拠本と天草版との対照による研究方法のあり方について 前提 一般的な諸本系統図のモデル(図1)は、書写過程以外における「作られた本文」を持つ異本の発生のある平家においては適用…

荻野千砂子(2007.7)授受動詞の視点の成立

荻野千砂子(2007.7)「授受動詞の視点の成立」『日本語の研究』3-3 要点 授受動詞の視点制約について、テ形補助動詞に生じた制約が本動詞に影響した可能性があることを示す 前提 敬語形・テ形補助を持つクレル・ヤル・モラウの3語について考える あなたが私…

森勇太(2011.9)授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から

森勇太(2011.9)「授与動詞「くれる」の視点制約の成立:敬語との対照から」『日本語文法』11-2 要点 クレルが持つ視点制約について、 中古においてはそれが存しなかったこと、クレル・テクレルがタブ・テタブと共通性を持つことを示し、 「話し手を高めな…

小柳智一(1996.3)禁止と制止:上代の禁止表現について

小柳智一(1996.3)「禁止と制止:上代の禁止表現について」『国語学』184 要点 上代(・中古)の禁止について、 禁止する対象によって、禁止(事前阻止)、制止に分けられ、ナーソ・ナーソネ・ナーはその両方(その中間の抑止)を表すが、ーナは強い禁止の…

秋田陽哉(2015.5)源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」

秋田陽哉(2015.5)「源平盛衰記に見られる命令を表す「べし」」松尾葦江『文化現象としての源平盛衰記』笠間書院 要点 ベシの命令の意について、以下の点を示す 中古にはほぼ見られないが、中世に多く見られるようになること 盛衰記には多く見られ、覚一本…